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ソルティビッチ
第1章 ソルティビッチ…
 13

 だが…

 彼は…

 いや、彼には…
 
 そんなわたしのメス犬の本能の疼きの昂ぶりは確実に伝わった筈なのだが…

 その証拠に…

 彼の、かわいい男の子の目は興奮で濡れ、揺らぎ、やや上気した表情をしていたのだが…

 彼は、そのかわいい男の子は突然立ち上がり…
 会計を済ませて店を出ていってしまったのだ。


「帰っちゃいましたねぇ…」
 彩ちゃんは揶揄的な笑みを浮かべそう言ってきた。

「え、えぇ…」

「悠里さんがぁ、責め過ぎたから…ですかねぇ?」

「え、あ、ま、こんな時もあるわよ…」
 わたしはそう自虐的に笑うしかなかった。

「やはり、ちょっとお子様過ぎたのかしらねぇ…」

 彩ちゃんはそう呟き…

「うん…そうかもね」
 わたしはそう応えた。

 だが、この心とカラダはすっかり、疼き、昂ぶってしまっていたのである…

「どうしよう…」

 わたしのそんな呟きに彩ちゃんは…

「とりあえず、客が引いたら行きますね」
 そう言ってくれる。

 そうなのだ、今夜は季節外れの台風が遥か南太平洋の海上で発生し…
 わたしの自律神経が激しく揺れ動き、昂ぶっている事を彩ちゃんは理解してくれていたのであった。

「遅くなっても行きますよ…」

「うん…ありがとう…じゃ、待ってるわ…」
 そんな優しい言葉を言ってくれる。

 だけど、この自律神経の昂ぶりの疼きは…
 とても自分自身では治めようがなかったのだ。

 それは過去の経験で、もう十分に分かっていた…

 そんな夜は…

 男がみつからなかったならば…

 彩ちゃんに甘えるしかない。

 
「ふうぅ…」
 わたしはバーの外に出て、ふと、南の夜空を見上げる。

 その夜空の向こうには決して見えないのだが…
 低気圧という空気が渦巻き、わたしを圧し潰そうとしているかの様に感じていた。

「はあぁ…」

 もう、間もなく冬になるというのに…
 すっかり心は憂鬱になってしまう。


 だが…

「あ、あら…」

 ふと、夜空を見上げていた視線を戻すと…

 そこに…

 さっきのかわいい男の子が立って…
 わたしを見つめていたのである。


「あ…」

「……」

 その男の子は黙って、恥ずかしそうな顔をして…
 わたしを見つめ、立っていた。


 そして再びわたしにエスのスイッチが入る…




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