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ソルティビッチ
第1章 ソルティビッチ…
 52

「わたしは…『葵、あおい』なの…」

 駿は…
 そう囁く。

「え、あ、あおい?…」

「そう…
 わたしの名前は…
 葵…
 あおい…」

「あ、葵…」

 そう告げてくる駿の、いや、葵の目は妖艶な輝きを放ってきていた…

「あ、あおい…」

 そしてその目の妖艶さはこの前の駿の…
 牙を隠していた、猟犬、ハウンドドッグの目とは全く違っていたのだ。

 ああ、なんて妖艶な目なの?…

 あの目じゃ、やっぱり、はっきりと駿だって気付かない訳だわ…

 そのくらいに、目の前の駿は、いや、葵は…

 妖艶で、艶やかな、美女であった。

 そして…

 わたしの心は…

 そんな妖艶で、艶やかで、美しい、葵にすっかり魅了されてしまっていたのだ。

 それにわたしは、女性に対しては…

 心を魅かれる女性に対しては…

 エム的な気質である。

 だから、よけいに…

 魅了され…

 魅かれ…

 惹かれてしまい…

 心を震わせてしまう…

「………」
 駿の、いや、葵のその妖艶な美しさに言葉を無くしてしまう。

 そして、そのタイミングで、他の住民がエレベーター前にやって来て…
 わたしと葵の二人は黙ってエレベーターに乗った。

 するとエレベーターに乗った瞬間に、葵が後ろからわたしの手指に自らの指先を絡めてきたのである。

 あ…

 ドキドキドキドキ…

 この、ほんの、指先の絡みだけでも、わたしはカラダの奥から溢れるほどの昂ぶりの疼きを感じてしまい…
 フラフラと葵に寄り掛かってしまう、いや、既に、力が抜けつつあったのだ。

 このエレベーター内に他の住民が一緒に乗っていなかったならば…

 わたしは葵と口吻を交わし…

 イッてしまったかもしれない…

 それ程に、興奮し、昂ぶってしまっていた。

 そして部屋のフロアに到着し、エレベーターのドアが閉まった瞬間…

「あんっ」
 
 いきなり葵に引き寄せられ…
 唇を吸われてしまったのである。


 あぁぁ…

 アッという間に全身の力が…

 膝の力が…

 抜けてしまい、唇を吸われ、葵に抱き抱えられてしまう。


「まだ…」

 逝くのは早いわよ…

 耳元で葵が囁く。


 わたしは…

 この妖艶な麗人である駿に、いや、葵に心を奪われ…

 魅了され…

 融ろかされてしまっていた…



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