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後宮に蝶は舞いて~Everlasting love~第二部
第43章 傷痕
判っているからこそ、なけなしの銭で食い物ではなく酒を買ったのだ。そう、あの夜、彼は間違いなく死ぬつもりだった。
彼は次第にぼんやりとした意識で、狭い店内を見回した。元は草紙屋だったのか、店内にはまだ埃を被った書棚が一つ放置されており、草紙が数冊残っていた。
通りに面した板戸は閉(た)て切っている。窓枠にはまった障子戸が破れ、細い月が危うげに浮かんでいるのが見えた。
ーこれもすべては報いだな。
老いた母と幼い娘を捨て、自分一人逃げた。これで仏罰が当たらないはずがない。だが、そろそろ楽になりたいのも本音である。
生まれてこのかた、人生、ろくなことがなかった。もう、裏切りも絶望もたくさんだ。
彼は次第にぼんやりとした意識で、狭い店内を見回した。元は草紙屋だったのか、店内にはまだ埃を被った書棚が一つ放置されており、草紙が数冊残っていた。
通りに面した板戸は閉(た)て切っている。窓枠にはまった障子戸が破れ、細い月が危うげに浮かんでいるのが見えた。
ーこれもすべては報いだな。
老いた母と幼い娘を捨て、自分一人逃げた。これで仏罰が当たらないはずがない。だが、そろそろ楽になりたいのも本音である。
生まれてこのかた、人生、ろくなことがなかった。もう、裏切りも絶望もたくさんだ。