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ガトーフレーズ
第10章 soufflé
その夜、電話が鳴った。
出会った日と同じ、優しい声が鼓膜を震わせる。

「莉乃さん」
名前を呼ばれただけで、涙ぐみそうになるなんて……。

「……うん」

そう言うのが精一杯だった。耳だけは、痛いくらいケータイに押し当てたまま。

「俺、明日パリに行きます。最後に会えませんか?」

心が揺れる。

そのとき、「藤宮君」と女の子の声が聞こえた。
「みんな待ってるよ」という声に「戻るから先に行ってて」と答える俊太。
きっと、卒業式のあと、みんなで集まって食事をしたりカラオケに行ったりするのだろう。

「行かなくていいの? 人気者が電話なんて、してちゃダメ。俊太のボタン、全部完売したんだろーね。うふふ」

努めて明るく言うと、俊太は怒ったような声で言った。

「何で今、そんなこと言うんだよ……」

沈黙が流れる。

「……ごめんね。もう会えないよ」

「でも、あの公園で待ってます」

「……行かないよ」

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