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A crescent moon
第6章 再会
顔が近づいてくる。
キスされるのかとおもって目を閉じかけると、小さな紙を渡された。
受け取ると、耳元でなにやらささやかれた。
顔が熱くなり見上げると、唇に軽く触れるだけのキスをされた。
「っ…」
「おやすみ。」
私は小さくうなづいて、フロアに急ぎ足で戻った。
”また唄いたくなったら連絡して…いつでも待ってる”
心臓がドキドキしている。
何故か涙が出そうだった。
フロアに息を切らせて戻ると、良子がタクトとキスをしているのが目に入った。
先ほどの一瞬を思い出して、紙を開く。
そこにはメールアドレスと電話番号が書いてあった。
私に気づいた二人が照れながら人を掻き分けて私のほうへ来る。
「早く帰ろう。話できた?」
「ね~あんたヨシキと知り合いって本当!?」
「…」
慌てて紙をポケットに仕舞う。
腕を絡めて聞き出そうとしてくる良子を適当にかわしながら、私は高鳴る胸を押さえてタクトさんの車に乗り込んだ。
家に帰ったら普通に振舞えるか。
来月の挙式は。
勘付かれて殴られたらどうしよう。
…そんなこと、玄関のドアを開けて正弘さんに抱きしめられるまで頭になかった。
陰鬱とした毎日が静かに動き始めた気がした。
ううん。
人生が変わっていく音が…
私の耳にかすかに、確信を持って、響いてきた。