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乳房星(たらちねぼし)−1・0
第52章 時間よ止まれ
時は、午前11時頃であった。

大番頭《おおばんと》はんの家の特大広間のテーブルにゆきさんといとと哲人《てつと》とまきたくみ夫婦と夫婦の知人の水口重樹《みなぐちしげき》と次女の奈保子《なおこ》さん(26歳)と長富花栄《ながとみはなえ》・光男《みつお》夫婦《ふうふ》と長男・公則《まさのり》(30歳)が集まっていた。

広間にきんぱくした空気が流れていた。

その中で、たくみが哲人《てつと》に対して過度に優しい声で言うた。

「哲人《てつと》さん、話を聞いてくれるかな?」

哲人《てつと》は、ひねた声で『なんでしょうか?』と言うた。

たくみは、哲人《てつと》に対して過度に優しい声で言うた。

「哲人《てつと》さんは、大学で知り合った女性と挙式披露宴を挙げたのだね。」
「挙げましたけど…」
「婚姻届《しょめん》は?」
「まだ(市役所に)出してませんけど…」
「それじゃあ、(カノジョ)さんを長富《ながとみ》の長男くんにゆずってくれるかな?」
「(哲人、おどろいた声で言う)(カノジョ)を譲れって…どうしてですか!?」
「哲人《てつと》さん、ぼくたちは哲人《てつと》さんを困らせるために言うたのじゃないのだよ…きちんとジンテキホショウはするから(カノジョ)さんを長富《ながとみ》の長男に譲れと言うてるのだよ〜」
「なんで譲らなきゃいかんのですか?」
「だから、長富《ながとみ》の長男くんは『お嫁さんがほしい…』と言うてるのだよ〜…」
「だから譲れと言うことですか?」
「そうだよ…ジンテキホショウはするから(カノジョ)さんを長富《ながとみ》の長男に譲ってくれ〜」

この時であった。

いとのとなりに座っている花栄《はなえ》が公則《まさのり》に対して怒った声で言うた。

「公則《まさのり》!!」
「なんだよ〜」
「お願いしなさい!!」

公則《まさのり》は、ものすごくつらそうな表情で言うた。

「だから、なにをお願いするのだよ〜」
「『お嫁さんがほしいから(カノジョ)さんをください!!』と言うのよ!!」
「言えないよ〜」
「困ったわね〜…あなた!!」

花栄《はなえ》に怒鳴られた光男《みつお》は、なにも言えずにコンワクした。

花栄《はなえ》は、ものすごくいらついた表情で公則《まさのり》の右腕をひいて哲人《てつと》のもとに行った。
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