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人質交換を託された女
第12章 籠城戦の行方
男は佐伯さんに向かい、足を進める。私は男の鬼気迫る雰囲気に道を譲り、後退りをした。

佐伯さんの後姿を見て、私は瞼を閉じた。それは彼女も両手を広げていたからだった。まるで『手出ししないで…』と言っているように感じた。まさか身を挺して私を逃がそうとしているの…という想いが頭を駆け巡る。

男は背後から佐伯さんをそっと抱きしめた。
「ハァッ…」と力の抜けた吐息が聞こえた。もし逃げるとなると、二人の肉体が繋がるまで、私は待つしかなかった。そんなことはできないと思った。

「君は男勝りだな…自己犠牲の念が強くて…誰かの助けになりたいのか…?」
男の穏やかな声と、体が離れていく感覚に、佐伯さんが後ろを振り返ろうとした。

彼女は「ハッ…」と慌てた声を出して、男に誘導されるように立ち膝になっていた。男の手が彼女の背中に伸びた。背中に掛かる縄を解き始めていた。
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