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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第2章 砂竜の国
───…
あの日から、九年ちかくの歳月が流れた。
ここは広大な砂漠の中心
緑が無く一面が土色の平野部に、突如として現れる城塞都市──
キサラジャ王国の首都ジエルだ。
風が吹き荒れる砂漠の中、そこは歴史ある高い城壁に守られている。
そしてひとたび壁をくぐれば、外の茫漠な風景と打って変わり、小さな家や天幕がひしめく雑多な光景が目に飛び込む。
馬やラクダ、ラバが繋がれた駅舎。
仮設の店が置かれたバザール。
さらに街の中心に向けてそこを抜ければ、土壁の建物が両袖に立ち並ぶ、石畳の大通りに出る。
そんな場所を、ひとりの青年が歩いていた。
その青年は──ただ、歩いているだけ。だが道行く人間が思わず振り返ってしまうほど、異彩な色を放っていた。
「──…」
薄汚れた麻布を巻き付けただけのその服装はみすぼらしく、どこの田舎者かと笑われても可笑しくない。まともな帽子すら身につけていないとは、信仰心の欠片もない無作法者だ。
だが、長めの前髪から垣間見える彼の器量はすこぶる良かった。
と言えどただの美丈夫なら…それほど周囲も驚かないだろう。
その青年の異色さとは、女人と見まごう繊細で儚げな容貌であった。
半分ほど伏せた目元も
高い鼻の下で、小さく息を漏らした唇も
どこか場違いな色気を感じさせる。
「お、お前さん…」
見惚れた街人は思わず行くあてを尋ねていた。