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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第2章 砂竜の国

「街の者じゃないだろう、見ない顔だ。街道を渡ってきたのか?商人には見えねぇが…」

「……」

「…っ…どこ目指してんのか知らないが人目は避けたほうがいい。最近じゃあどこもかしこも治安が悪くて、よそ者は狙われやすい。この街だって……」

 声をかけた街人は、立ち止まった青年を前にして言葉を詰まらす。

 近くで見れば見るほど、精巧なカラクリ人形のような造形だ。

 彼が此方を見ようともしないので、本当は仮面を被っているのではと思ったほどだった。


 そうだ

 生身の人間と言うにはあまりに…生気(せいき)が無い。


「お、おい……?」

「……」


 肌といい髪といい、全体的に色素が薄いせいだろうか。


「聞いてんのか?ここへ…何しに来たんだ?」

「──…王宮へ向かう」

「は?」

「王宮へ行き、近衛隊に志願する」


 反応が無く街人が困っていると、どこからともなく声が届く。

 ──それがこの青年の声なのだと気が付くのに数秒かかった。


 凛と静けさの籠もった声だった。


「へ?いやいや、近衛隊つったってお前さん、意味わかってるんだろうな?」

「ええ」

「あのな、近衛隊は国王さまの直属部隊でー、えー、待遇は確かに民兵なんかよりずっといい」

「…そのようだね」

「だが兄ちゃんには無理だ。俺たち平民にはな」

「……」

 引き止めようとする男を前に、初めて青年は視線を動かした。

 伏せていたまつ毛がそっと上を向き、朝日の色を反射した瞳が白っぽく光る。

「……爵位は、確かに持っていない」

 そして朝日の眩さにすら耐えられなかったのか、すぐ元通りに伏せてしまった。

「だったらやめときなよ綺麗な兄ちゃん。もし…もしだぞ?運よく入隊できたとしてもな、爵位を持たない身分で近衛兵になったとこで、お貴族さま御用達の男娼にされるのがセキの山だ。そんな話を聞いたことねぇのか?」

「知っている」

「…!? だったらなんで」

「……知っているさ」

 男の制止を気に留めず

 青年は再び、王宮へ続く道を歩き出した。





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