この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第2章 砂竜の国
「街の者じゃないだろう、見ない顔だ。街道を渡ってきたのか?商人には見えねぇが…」
「……」
「…っ…どこ目指してんのか知らないが人目は避けたほうがいい。最近じゃあどこもかしこも治安が悪くて、よそ者は狙われやすい。この街だって……」
声をかけた街人は、立ち止まった青年を前にして言葉を詰まらす。
近くで見れば見るほど、精巧なカラクリ人形のような造形だ。
彼が此方を見ようともしないので、本当は仮面を被っているのではと思ったほどだった。
そうだ
生身の人間と言うにはあまりに…生気(せいき)が無い。
「お、おい……?」
「……」
肌といい髪といい、全体的に色素が薄いせいだろうか。
「聞いてんのか?ここへ…何しに来たんだ?」
「──…王宮へ向かう」
「は?」
「王宮へ行き、近衛隊に志願する」
反応が無く街人が困っていると、どこからともなく声が届く。
──それがこの青年の声なのだと気が付くのに数秒かかった。
凛と静けさの籠もった声だった。
「へ?いやいや、近衛隊つったってお前さん、意味わかってるんだろうな?」
「ええ」
「あのな、近衛隊は国王さまの直属部隊でー、えー、待遇は確かに民兵なんかよりずっといい」
「…そのようだね」
「だが兄ちゃんには無理だ。俺たち平民にはな」
「……」
引き止めようとする男を前に、初めて青年は視線を動かした。
伏せていたまつ毛がそっと上を向き、朝日の色を反射した瞳が白っぽく光る。
「……爵位は、確かに持っていない」
そして朝日の眩さにすら耐えられなかったのか、すぐ元通りに伏せてしまった。
「だったらやめときなよ綺麗な兄ちゃん。もし…もしだぞ?運よく入隊できたとしてもな、爵位を持たない身分で近衛兵になったとこで、お貴族さま御用達の男娼にされるのがセキの山だ。そんな話を聞いたことねぇのか?」
「知っている」
「…!? だったらなんで」
「……知っているさ」
男の制止を気に留めず
青年は再び、王宮へ続く道を歩き出した。