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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第12章 指切り将軍


“ タラン・ウル ヴェジール、…今度は何を企んでいる? ”


 長年、議会の実権を握ってきたタラン。

 奴はしばらく大人しかった。無駄に私腹をこやそうとするでもなく、横暴な振る舞いをしてきた訳でもない。

 しかし…だからこそバヤジットは奴の動向を注視してきた。

 長く王宮にいる者なら知っている。タラン侍従長がその気になれば、どんな非情なコトもできる男であると。奴に目を付けられた者がどんな末路を辿るのかを──。

 バヤジットはよく知っている。

 かつて、タランによって笑顔を奪われ
 居場所を奪われ
 兄を奪われ
 そして命を狙われた

 心優しい幼き少年を。

“ 殿下…… ”

 忘れる事は無い。

 全てを奪われた少年から…最後に誇りを奪ったのは自分だった。


『 それが殿下の刻印ですか……。確かに、獣に喰われて死んでいたのだな? 』

『 …はい 』

『 ………… 』

『 ……っ 』

『 …まぁよいでしょうどのみち大罪人だ。可哀想だが、天罰がくだったということであろうよ 』

 
 あの日、遺体ではなく " 指 " のひとつを持ち帰ったバヤジットの苦しい嘘を、タランは瞬時に見抜いていた。

 だがタランはそれを追求せず、何をするかと思えばバヤジットを近衛隊のバシュに昇級させたのだ。

 誰の目から見ても不自然な昇級だった。多くの者は反発し、バヤジットを揶揄して《指切り将軍》と呼んだ。

 これはタランが彼に与えた罰──

 そして口止めだ。バヤジットはつくづく、タランという男の恐ろしさを知った。

“ あの男のことだ。いつか必ず次の手をこうじてくると監視してきたが、それが今か? ”

 何かよからぬ事が起ころうとしている……

 直感でそう感じるバヤジットは、無言で思索をしながら王都の中心へ足を運んだ。



『 バヤジット…… 』



「…っ」

 何度も脳裏に浮かんでは消えるあの日の少年の泣き顔を、必死に振り払いながら。








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