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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第13章 白い花


「それほど僕たちが邪魔ですか」

「……!」


 バヤジットの言動が自分たちへの単純な優しさからではないと気付いている。

 …とは言え彼が何か企みを隠し持っているわけではない。この男はいつも実直で、誠実であるが故に嘘をつこうとしないだけだ。


「そうだな……邪魔だ。お前の存在は兵団にとって害でしかなく、扱い辛い」

「だから貴方は僕をこの部屋へ閉じ込めようと?」

「…っ…クルバンは悪しき慣習だがいまだ続いている。上流貴族の推薦を受けたお前を追い出すのは俺であろうと難しい。であればこれが最善だろう」

「波風を立てず他の兵士を刺激せずバシュの監視下でひっそりと暮らす……確かにそれが最善ですね。貴方の兵団を守るために」

「そういう事だな」

「…そこまで兵団の質にこだわる理由をお聞きしても?」

「問われるまでもなく、キサラジャと陛下をお守りする為だ。それが近衛兵である俺の信念だからな」

 信念

 それを聞いたシアンの表情が、一緒の間をあけた後──ほんのりと柔らかく、それでいて苦しげに染まった。


「それは──…素敵な理由ですね」


 羨ましいと、ボソリと呟いた言葉はバヤジットに届かない。


「待て、どこへ行く?」

「外へ出ます」

「お前は俺の話を聞いていなかったのか…っ」

「聞いておりました。貴方の使命も信念も真っ直ぐで美しい。……そして正しい」

「では…」

「しかし僕にもここへ来た目的があるのです。それは貴方の庇護下にいては叶わぬ事だ」

 シアンは相手の横を素通りして外へ出た。




 温かいような重苦しいような塊(かたまり)が、彼の魂にこびり付く。

 あの笑顔もあの強い眼光も、シアンには縁遠い存在だ。

 夢も

 信念も

 シアンには無い。……いや、失くしただけか。

 きっとずっと昔に失った物だ。

 取り戻せない──。

 もう二度と、手に入れる事は許されないのだろう。








──…




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