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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第13章 白い花
「…おやすみなさいかな」
それから、阿芙蓉(アフィヨン)の作用で睡魔に襲われた彼はシアンの胸で瞼を閉じ始めた。
「…シアン……まだ……言ってない」
「……?」
「お礼……あの時、助けに来てくれて……」
「…いいよ。もう、おねむり」
「う……ん……」
興奮して叫んでたくさん喋ってその疲れもあるのだろう。
パシパシと瞬きを繰り返した目は、安心したようにゆっくりと閉じた。
シアンは布団を綺麗にかけ直して、彼の裸体を隠す。
「…お待たせしました。もう入って結構ですよ」
「……」
それからシアンが、オメル以外の何者かに向かって声をかけた。
すると部屋の扉が開く。
「──…気付いていたのか。勘のいい奴だ」
入って来たのはバヤジットだった。
バヤジットは大きな片手に複数の器(うつわ)を持ち、それをシアンに差し出す。
「食べろ、お前たちの夕食だ。…片方は寝たようだが」
「…!? バシュ(将官)ともあろう御方がわざわざ…?このような事までして頂かなくとも」
「王宮へ出向いた帰りに、ついでに宿舎で調達しただけだ。それにあそこの食堂は無法地帯だが、俺が顔を出せばそれなりの牽制になる」
「ですが…」
「よく分からんところで歯向かうな」
べつに歯向かった訳では無いのだが、バヤジットは怒ったふうにずいと器を突き出した。
夕食が盛られたそれらを受け取ろうとする。ただ、シアンの片手で複数の器は受け取れずどう貰うべきかと悩んでしまう。
「…どうした、食欲が無いのか?」
「いえ…」
さらに言えば、鼻先に差し出されたそれらは四人前かと思うほどの量で、小食なシアンがそれだけで食欲を失くしたのは事実でもある。
「もう少し後で、彼が目を覚ましてから僕も頂きます」
「ならそうしろ」
シアンが誤魔化して笑うと、今度はあっさりと承諾してバヤジットは器を卓上に置いた。
「それから今後は宿舎へ近付くな。建て前上 兵団の雑務は続けてもらうが、訓練に顔を出す必要もない。食事は朝と晩にここへ運ばせる」
「…っ…いえ、流石にそこまで甘える訳にいきません」
「甘えではないだろう。黙って俺の言う通りにすればいい」
横でオメルが起きていればすぐさま礼を言うだろう。しかしシアンは複雑な顔でバヤジットを見上げた。