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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第2章 砂竜の国
キサラジャ暦325年──
数百年と続くここキサラジャの歴史は古く、統治する領土は東の帝国にも匹敵する広さである。
しかし領土のほとんどが人の住めぬ乾いた砂漠。
よって国民の数は、帝国の半分にも満たない──そんな国であった。
しかも、この地方特有の強い北風による砂嵐が原因で、どの街や村も緑が育たず、農耕に適さない。
なかでも初冬に現れる巨大な砂嵐の威力は恐ろしく、時には街道で旅人を襲い…時には村のひとつを吹き飛ばしてしまうという。
そのためキサラジャ王国は
「砂竜の国」と呼ばれ恐れられていた。
ただ、そんな過酷な大地にまたがるキサラジャにも、唯一もたらされた恵みがある。
それは 水 であった。
遠く北西の山脈のから、雪解け水が地下水となってキサラジャの真下に流れ着くのだ。
地下に溜まった水は、王都ジゼルの中心部、水の社に湧き出ている。
かつてこの湧き水を見つけた通りがかりの隊商達が、砂嵐から湧き水を守るために社(やしろ)を建てた事がキサラジャの歴史の序章であり──
王宮も、街も、街を囲む壁も、元はと言えばこの社を守るために作られたのだ。
さらに、キサラジャの豊かな水は周辺諸国にとっても貴重である。
それに目を付けたかつての為政者は、隣国へ対してカナート(地下用水路)を建設し、その対価として多くの物資を受け取った。
こうして街道の中心地となったキサラジャは、作物の育たぬ過酷な土地にありながら生きぬく事ができたのだ。
砂竜の国の命は
すべて水の恩恵が握っている──。
恩恵とは与えられる物だ。水も食糧も、自らの手で生み出したものでない。
それがいったいどういう意味か。
繁栄の歴史を疑わない愚かな為政者達が、もし、その意味を軽視したならば…
国を守る古風な城壁など、いとも簡単に崩れ去るだろう。
───…