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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第14章 面影

「そこで何をしている!」

「ちょうど暇を頂いているので…」

 シアンはバヤジットに目を向けず、鞍(くら)を付けられたラクダの横腹を撫でている。

「僕のことは気にしないでください」

「そうはいくか。お前はっ…昨日の俺の話を何だと思っているんだ。俺はな!無駄に出歩くなと言ったんだ」

「それは無理です」

「はぁ…、無理ではないだろう…。…第一に」

 額に手を当てて溜め息をつくバヤジット。彼は項垂れたまま目を開けて、シアンの左腕に視線を流す──。


「お前の片腕──義手であったな」

「……」

「肘から下か?そんな腕でどうやって手網を操るつもりだ。とくにラクダは馬よりも気性が荒い。舐めてかかると振るい落とされてあの世行きだぞ」

「ああ、これ」

 布に巻かれたその左腕は確かに人の物ではない。

「平気です」

 けれどシアンは涼しい顔でひと言告げて、足ふみに片足をかけた。


 ぎょっと慌てたバヤジットが駆け寄るも、それより早く鞍を掴んでラクダに体重を預ける。

 シアンが飛び乗ると、ラクダが前足をあげて大きく嘶(いなな)いた。


「馬鹿か落とされるぞ!早く俺の手を───ッッ」

「…っ」

「──…ッ、お……?」


 一瞬暴れた獣の背上で
 口を開けて笑った青年


「ほらね」


「──…ッ」


 顎をあげて得意気に見せた " したり顔 " は、バヤジットが知るどの彼よりも──少しだけ幼い。

 空のキャンバスと同化しそうな白い艶肌へ朝日がいたずらに映り込み、そのせいか……彼を見上げるバヤジットが目を細めた。


“ こい つ…… ”


 シアンは義手の腕に手網を二重に巻き付けると、強く張った弦のように背筋を真っ直ぐと伸ばした。そして右手でラクダの首を叩いてあやす。

「どうどう、暴れないで」

「……」

「このとおり僕は平気ですよ、バシュ。お供を許して下さいませんか?」

「…っ…スピードは変えんぞっ」

「ふふ、命がけでついて行きます」

 ふいと背を向けたバヤジットは、大事にならなかったことへの安堵と、おかしな胸のざわつきを沈める為に息を吐く。

「はぁ……」

 自らもラクダに飛び乗り、シアンを背後に従え街を出た。





──




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