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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第15章 ウッダ村の民兵
それから陽の日が頭上に登りきるより早く、彼等はウッダ村に辿り着いた。
もともと、王都の影に隠れて稼ぎの少ない村だ。舗装のされていない道と、ポツポツと点在する土壁の家。
「部下の報告にあったとおりだな…」
だが今は大量の天幕(ゲル)がひしめき、建物の隙間を埋め尽くしていた。
二人はラクダを降り、手網を引いて歩き出した。
「そういえばお前のその格好は何だ?隊服はどうした」
「これは昨日バシュに渡された服ですが」
「そ、そうだったな」
「ちなみにこの帽子はバシュの調度品の棚から拝借した物です」
「……。もう勝手にしておけ」
隊服でない普段着姿に、ターバンではなく帽子を被ったシアンは悪びれることなく答えた。
「僕よりもバシュの服装のほうが問題ありかと思いますよ」
「そんなわけあるか」
生意気なシアンを放って前に向き直ったバヤジットだが、天幕がひしめくこの場所に人の姿はない。
だが使われている痕跡はある。なにより、あたりにただようこの異臭──。きっと、管理の範疇(はんちゅう)を超えた数の人間がここで暮らしているのだ。
「…っ」
バヤジットは砂避けの布の下で、不快な臭いに顔を歪めた。
「不衛生ですねぇ」
すぐ後ろで平気な顔で呟くシアンが信じられない。
熱い空気とあいまって、ひと息吸うごとに気分が悪くなる。
「在中の近衛兵がいるとしても、ここではない気がします」
「だろうな。平民の姿が見えないのも……別の場所へ集まっているからか?」
「あちらの方角が騒がしいですね」
「行ってみよう」
声のする方を目指し、天幕を押し退けるようにして二人は進んだ。
「─……、───。───…」
“ 中から声がする……?無人ではないのか ”
通り抜ける時、天幕の中からヒソヒソと話し声が聞こえた。もぬけの殻、というわけではないらしい。
だが中の人間は息をひそめている。
“ ……?まぁ、構わんか ”
無言の気配を察知するバヤジットは、その静けさを不気味に感じた。