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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第15章 ウッダ村の民兵
それから天幕(ゲル)の群れを抜け出たバヤジットは、広がる光景に唖然とした。
「なんだこの数は……!?」
建物の無い村のはずれに、予想を超える数の男達が集まっていたのだ。
彼等が何をしているかと言うと、互いに打ち込みの訓練をしている……ように見える。
「これが集められた平民か?これ、は……酷すぎるな」
どこを見ればよいのか。数だけ異常に多い男達は、まったく統率されていない。
やる気なくヘラヘラと小突き合う者もいれば、がむしゃらに棒を振り回して疲弊している者もいた。
「 " これ " ……何をしているのでしょうか」
「部下の話によれば、タラン侍従長がこの村へ民兵を集めたらしい…。つまり、" あれ " が……兵士という事になる」
「兵士── " あれ " が?彼らに戦場なんて行かせたらひと振りも叶わず敵の刃に倒れそうですね」
バヤジットの後ろから顔を出したシアンも、何の冗談かと呆れている。
「~~~!!」
いつもの癖で我慢ならなくなったバヤジットが、ラクダの手網を放り投げて走って行った。
「おい貴様ら!」
「…んあ?──って、ひええっ!?」
「なんだそのフヌケた刀の振るい方は!やる気があるのか!?」
「きっ貴族さま!おれはっそのっ…おれらなりに力いっぱいやってまして……………というかどうしてこの時間に貴族さまが訓練場に…」
「これのどこが訓練だ軍隊を舐めるな!」
「ひっええええーーー!」
手前にいたひとりの男が犠牲となり、すごい剣幕のバヤジットに怒鳴られている。
バヤジットが捨てた手網を代わりに拾ったシアンは、遠くからそれを見守っていた。
荒馬が乱入した訓練場は大混乱だ。
「近衛兵はどこだ?ここにいるのは皆平民か?なんの目的で集められた?貴様らはいったい全部で何人いるのだ!?」
「おれはなんも知りません~!」
ここへ連れて来られた経緯。誘った人物とその目的──。
自らが将官であると公言するあの隊服姿で正面から乗り込んだところで、相手に警戒されるだけだ。有益な情報を得られるとは思えない。
「……偵察に不向きな男(ひと)だ」
無意識に笑っているシアンは、不器用なバヤジットを馬鹿にしているのかどうなのか…。
彼は天幕の杭にふたつの手網を結び止めて、その場を離れた。