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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第16章 神に捨てられた子

「太陽神の恵みを与えられなかった子供の成れの果て──そんな男娼を指して《 ギョルグ 》と呼ぶのです」

「そんな者を生みだして……何の利がある」

「わかりませんか?」

「…っ」

 バヤジットには理解できないかもしれない。

 宿の亭主達がこぞってギョルグを 作り 出すには三つの理由があった。

 一つは単純にその容姿が客にウケるからだ。白い肌はそれだけで、この国では値打ちがある。売り値も当然跳ね上がる。

 二つに、商品が逃げ出さないための細工である。一度ギョルグになった少年は、その実(じつ)を隠して逃げたとしても、見た目で呆気なく過去がバレてしまう。だからギョルグは一生その生き方を変えられない。

 そして、理由はもうひとつ。

「ギョルグは皆──短命だ。僕たちの " 期限 " は、既に定められているのです」

「なんだと…!?」

「男娼が客をとれる歳は限られていますからね。下手に長生きされたところで…亭主にとっては邪魔なのですよ」

 太陽に──神に捨てられた子供が、長く生きられないのはある意味道理にあっている。

 そんな儚ささえも客をとるための武器にする。

 男娼として生き残るとは、彼が歩んだ道とは、そんな世界だった。



 憐れむか、そんな僕を



「醜いですか」

「──…ッ」


 問われたバヤジットは言葉を呑んだ。

 先ほど抱いた平民達への蔑みを──見透かされているようだった。

 憎いとさえ思った。生きる為に誇りと、守るべき妻子を差し出して、へりくだるしか脳のない奴らが。

 だが今この青年に問い掛けられて──この瞳に見つめられて、バヤジットは彼を貶む気になれない。


 何が違う?

 何かが、違う──


 バヤジットの沈黙を肯定ととったか否定ととったか。シアンはそっと……彼の手を離した。


「どれだけ醜くとも僕はこの生き方から逃げられないし、逃げる時間も残っていない──。であればこそ、死ぬ前に為すべき事は決めています」


 そして……沈黙の後にバヤジットは気が付いた。

 強いのだ──彼は。

 あらゆる不条理にさいなまれ、多くの者に媚びを売り、人道に反する手段も使ってきたであろう、それでも

 この青年はおそろしく強(したた)かなのだ。



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