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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第16章 神に捨てられた子

 バヤジットは慌てて彼を抱き止めた。

「おいどうした!? 何か──ッ」

 シアンの髪がさらりと横に流れて長い首筋があらわになると……そこへ刻まれた赤々とした噛み痕が目に入った。

 抱き寄せた身体も、かなり熱い。

 そして何より倒れたシアンの全身に、嗅ぎたくもない忌まわしい臭いがこびりついている。

 バヤジットは顔を歪ませた。

「シアン、また…なのか…!?」

「申し訳 ありません……。やはり日を置かず多勢相手ともなると、少し回復が遅くなる ようです」

「…っ…誰にやられた」

「……」

 シアンは黙っている。バヤジットは声を震わせた。

「教えろ、誰にやられた……」

「……言えません」

「情報を売った平民だな?お前が近衛兵であると知ってのことか…!?」

「…いいえ、僕は近衛兵であると名乗っていませんし…もし名乗ったとしても、信じる者はいません、よ」

「そんなものわからんだろう!何故お前は自分の身を守ろうとしないのだ。仮にも、お前は……っ」

「…………ハハ」

 自分事のように悔しさを露呈するバヤジットに対して、シアンは弱々しく渇いた笑みを零した。


「神に捨てられた子(ギョルグ)を──ご存知ですか?」


「ギョル…グ…!?」


「……勿論、貴方はご存知ないか」


 疑問符を浮かべたバヤジットに対して、小馬鹿にしたような安堵したような…そんな口調でシアンが囁いた。

 バヤジットはと言うと彼の話に付き合う余裕がないので、すぐさま彼を抱き上げ、手近な家屋の中へ入った。

 扉を蹴飛ばして開けると、寝台があったので丁度いい。シアンをそこへそっと寝かせる。

 水を探そうとすると、その手をシアンが掴み返した。


 いかないで、と。


「売春宿では……客引き前の幼い少年を、光の入らない暗闇に一年、閉じ込めます」

「…!?…いったい何の、話を」

「そこから生還した子供は……白い肌に白い髪、赤い瞳となって檻から出てくる。僕のいた宿にも同じ容姿の人間が何人もいました」

「白い肌と髪……?では、お前も?」

「ええ、……、…僕も です」

 下肢の痛みに耐えながら、シアンは傍らに座る男の手を握っている。

 こちらを心配するバヤジットの声がどうにも優しくて、耳がこそばゆい。それが新鮮で…楽しんでいるのかもしれない。



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