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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第3章 入隊の遊戯
「聞いてくれ貴族さま!」
「客足が遠のいて仕事にならない!なのに今月ぶんの支給は無しだなんて…うちの村はみな飢え死にだ。麦がねぇと家畜も死んじまう!」
青年が王都ジゼルの中心部に近付くと、とある門の前に人だかりができていた。
「待て、貴様」
腕や身体に押しつぶされながら前列に飛び出した時、槍を持った二人の近衛兵が青年の前方に現れた。
「この先へ行けると思うな。ここはクオーレ地区。貴様ら平民は立入禁止だ」
「貴方は?」
「俺はこの門を警備している。見ての通り、物資を寄越せとコジキ共が群がってくるのでな。貴様もそれが目的だろうが」
追い返そうとした衛兵だったが、青年はひるまず話しかける。
「僕は志願兵です」
「志願兵?ああ民兵か。それなら駐屯地はジゼルではなく隣のウッダ村だ、マヌケ者」
「いえ……民兵ではなく近衛兵に」
「は?」
門に手をかける人々を押し返しながら、衛兵は呆れた声をあげる。
「何を寝ぼけた事を言っている」
「寝ぼけてはおりません」
「近衛隊は、我ら子爵や男爵から構成される由緒正しき兵団であるぞ!王族に遣える者として、幼き頃より教育を受けてきた。貴様のような薄汚れた小僧が夢見たところで、叶うわけもないわ」
「ですが」
「チッ……帰らない気か……
ええい!うっとおしいコジキ共め!」
痺れを切らした衛兵が、力任せに槍を振るった。
「これ以上手をかけるようなら片っ端から切り捨てるぞ!」
衛兵の大声に怯えて、人ごみは四方に散っていった。
一気に静かになった門の前で、残ったのは青年だけだ。
二人の衛兵はますます呆れた様子だ。
「まだ諦めないか?切り捨てられたいか」
「いいえ、僕は殺されに来たわけではありませんが、ただ入隊を認めて頂けるまでは帰れない」
「生意気な奴だ。いったい誰の入れ知恵か知らんが……
──…待て、その手にあるのは何だ?」
衛兵が槍の先を青年に向けた時だった。
青年は一通の手筒(てがみ)を取り出したのだ。