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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第17章 ハンマームにて(前)
「邸宅にいらっしゃらないと思ったらここで朝食をとっていたのですね」
「こういう人が集まる場所は情報収集に向いているからな」
「のわりに、話が弾んでいるようには見えませんでしたけれど?」
「……」
「…?」
「…っ…いや、少し昔の事を思い出していて……な。そのせいだ」
「そうですか」
とくに興味もなさそうなのに、人懐く関わろうとしてくるシアン。
そんな彼の顔を数秒見つめたバヤジットは、目線が合わさったことで我に返り、弾かれるように目をそらした。
「お前こそ何用だ、シアン。いくら俺にまとわりついたところで王宮警備兵にしてやる事はできないぞ」
「ああ…あれ、僕の頼みを覚えていたのですね。ほんの冗談ですから気にせず忘れてください」
「だったら俺に付いてくるな」
「それは誤解ですね。ここでバシュと会ったのは偶然ですよ?」
席についただけで注文をしないシアンは、ニコニコとよからぬ笑顔をバヤジットに向けてそんな事を言っている。
「俺の家から遠いうえにクオーレ地区の外だぞ?偶然出会ってたまるか」
「そう睨まれましても……。だって貴方がお命じになったのでは?」
「ん?何の話だ?」
「──あそこ、彼は大喜びです」
「──?」
シアンが手を上げて、広場のほうを指し示す。
振り返ったバヤジットがその先を目で追うも、シアンが何を指しているのか判断できない。
「ん……?」
すると広場の反対側から、明らかにこちらを目指して走ってくる人影があった。
その少年は、見習い用の隊服を着ている。
口に入れた何かをもぐもぐと呑み込んで、走る彼はシアンの前で止まった。
「見つけたぞシアン!迷子になっちゃダメじゃないか」
「僕はずっと君を見張っていたから大丈夫」
「そうなのか?ならいいよ」
朝っぱらから元気いっぱいな声で話しかけてきたのは、シアンと同じくバヤジットの邸宅で匿われているオメルだった。