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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第17章 ハンマームにて(前)

「どうかしたか」

 腕を組んで背筋を伸ばしたバヤジットは、シアンを見もせず聞き返す。

 先ほどからずっと周囲を警戒して、近付く者がいようものならその眼光で追い払っているのだ。

「…バシュ。確かに貴方を浴場にお誘いしたのは僕ですし、誘い方もあまり…良くなかったかもしれません。ですがこの構図、まるでバシュが僕達の護衛のようです」

 シアンは溜め息まじりに話しかけた。

「…実際に警護している」

「あのですね、一国の将官に警護されるというのは身に余る光栄なのですが、同時にとても緊張します」

「知らん。お前達はくつろいでおけばいいだろう」

「それが難しいのです。──…見てください、オメルなんてずっとこうです」

「……?」

 シアンに言われて横目で見ると

 背もたれなんて忘れた姿勢で固まっているオメルがいる。

 彼はバヤジットの視線を感じてますます緊張したようで、口をグッと引き結んだ。

 オメルにとってバヤジットが数少ない味方である事は確かだ。しかしまだ怖いという気持ちはあるのだろう。

 半分以上はバヤジットの人相(にんそう)が原因だ。目つきが鋭い、コワイ。

「お前……」

「はい!」

「…っ…あのなぁ」

“ 怯えられるのなんて慣れてるが……ッ ”

 人相はそう簡単に変えられない。

「ハァーー。わかった」

 バヤジットは根負けした様子で大きく息を吐いた。


「俺を怖がる必要はないぞ。オメル」

「ぁ、は、はい!」

「俺の目付きは生まれつき悪いが、べつに怒っている訳ではない。今も全く怒っていない」

「はい、……ん?怒ってない?」

「だから安心しろ」

 そう言ったバヤジットは自分の黒髪をわしわしと掻きなぐり、ひっくり返るようにして背もたれに寄りかかる。

「ついでに教えるが、蒸し風呂では肩の力を抜け。固まっていては疲れが取れない」

「…ふーん」

「真似をしろ」

「わかりました!」

 こうしてシアンの両隣りは、二人仲良く仰向けに。

 少し極端に感じたが…


「シアン。お前は寝ないのか」


「──…僕も、ですか?」


「何か起こればすぐに俺が助ける。大丈夫だ」


「……。なら…お言葉に甘えます」


 まぁ、良いのかもしれない。

 両極端な二人にはさまれて、シアンも同じように寝そべった。





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