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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第18章 ハンマームにて(後)

 その後、ひとしきり汗を流したオメルは洗い場に行った。

 洗い場で働く専属人の前で寝そべり、垢スリで汚れを落として貰っている。初めはくすぐったいのか落ち着きがなかった彼だが、今は気に入ったようで大人しくしていた。

 その様子をもとの場所から見守るシアンのもとに、水を浴びてきたバヤジットが戻ってきた。

「お前は本当に我慢強いな」

 頬を上気させて視界をまたたかせるシアンの顔に、水をくんだ器を突きつける。

「倒れる前に水は飲め」

「…そうか、忘れていました」

 受け取ったシアンは、くいと器を傾ける。

 口の端から零れた水が、汗の粒を浮かべる白い首筋をつたい流れた。

「お前はよく来るのか、ここには」

 普段から自邸の風呂場で身体を拭くだけのバヤジットは、久しぶりの浴場(ハンマーム)だ。

 クオーレ地区内にも浴場はある。だがそれこそ、そこには近衛隊の部下がおり、バヤジットを見ると萎縮するものだから居心地が悪いのだ。

「これほどの規模ではもちろんありませんが、どこの歓楽街にも小さな浴場は必ずあります」

「…お前が住んでいた街にもか」

「ええ、絶好の狩場でしたよ」

「……」

 水を飲んだシアンが器を傍らに置く。

 バヤジットは彼の話に耳を傾けつつ石の座椅子に腰をおろす。

 水を浴びてきたバヤジットの褐色の肌には、早くも次の汗がいくつも浮かんでいた。

「狩場、か」

「と言えど、何も客全員を巻き込んでの大乱交なんてしませんよ?さすがに身がもちませんから」

 シアンが隣りに顔を向ける。

 バヤジットは筋肉の浮き出た腹部をさらして仰向けになり、石造りの高い天井を見つめていた。

 やはりその目は、何かを睨み付けているように見える──。

 シアンはふと、その視線を奪いたくなり

 男の腹に手を伸ばした。

「──…ひとりの標的を見定めたら、それを上手く誘い出します」

「…っ」

「…こんなふうに」

 腰巻きの上にのぞいた腰骨に触れ、臍(へそ)の真下へと爪の裏を滑らせる。

 ビクリと動いた腹筋の割れ目をなぞるように……

 四本の指を、逞しい胸板までたどらせた。


ツ──────


「……ッッ」


 咄嗟にバヤジットは、悪戯な細腕を掴んで引き剥がした。



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