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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第18章 ハンマームにて(後)


 腕を掴まれたシアンは目を細めて微笑む。


「……そういう話、貴方はお嫌いでしたね」

「……!」


 どこか切ない声に感じた。

 バヤジットに掴まれた腕を振りほどこうとせず、視線が絡んだその流れでシアンは相手に問いかける。

「先ほどバシュが仰った、『怒っていない』と言うのは本当ですか?」

「俺がオメルに言った言葉か」

「そうです。あれはオメルを安心させる為の嘘ですか?僕にはやはりあの時のバシュは強く怒っているように見えました」

「……。どうだろうな」

 シアンに問われて、バヤジットはあの時の自分を思い返す。

 …確かに彼は苛立っていたのだ。

 シアンが衣服を脱ぐだけで集まる好奇の目。

 馬鹿にするように鳴らされる口笛にも…厭らしい思惑丸出しでシアンに話しかけた男にも

 悔しがる素振りもなく、慣れた様子のシアンにも。

 そうだ、俺は我慢ならなかった──

「俺は近衛隊の将官となった日から己を強く律してきた。だが自身がそうあるほど…周りのダラしなさが目に付くようになる…。道理を忘れ色欲に溺れる者共を嫌悪するようになるんだ」

「…己の欲を律するのは、貴方の信念の為ですか?」

「そうか…前にも話したな。陛下をお守りするのが俺の信念であり、街の治安を守るのも俺の使命だ」

 そこまで言って、バヤジットはシアンを見る目付きを変えた。

 片目を細め、目尻をぐっと持ち上げる。

「だから俺はお前を邪魔に思った──。お前はそこにいるだけで周囲の人間をたぶらかす。街や兵団の風紀を乱す…」

「……」

「お前は俺を苛立たせる」

「…なら貴方は僕に対して怒っていたわけですね」

「それだけではない」

「──?」

 突然バヤジットは、掴んでいるシアンの腕を自らのほうへ引っ張った。

 片腕のシアンはとっさに身体を支えられず、相手の胸に寄りかかることになった。



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