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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第19章 砂塵に紛れ


──…


 それから十数日に渡り、キサラジャを激しい嵐が襲った。

 季節の変わり目を知らせる風だ。こうして国は濃い砂塵に包まれ、陽の日を遮断された砂漠地帯は氷点下にまで気温を下げる。

 「砂竜の国」と呼ばれるキサラジャの、もっとも過酷な季節が来たのだ。

 そして、そんな嵐の訪れは、硬直状態だった帝国との対立にひとつの変化をもたらした。


 国境(くにざかい)で互いを牽制し合っていた両軍が撤退したのだ。


「──…意外だったな。侍従長(やつ)がこうもあっさり撤退を認めるとは」

 今、クオーレ地区の外にある小さな酒場で、バヤジットを含む数名の近衛兵が会合を開いていた。


「そうでしょうか?撤退は当然かと。この嵐では帝国も攻めこめませんし」

「……」

「どうせ帝国に喧嘩を売った手前、上げた腕を下ろせず途方に暮れていたのでしょう。この嵐は、タラン侍従長にとって好都合だったと思います」

 内容は勿論、タラン侍従長と議会の動向についてだ。

 近衛兵の撤退を認めたタランについて、部下達はあまり怪しむ様子がない。

 そもそもカナート(地下用水路)の修復を妨害していたキサラジャだが、メリットはひとつとして無かったのだ。

 カナートの破壊が帝国の仕業という確証も無い。

 帝国の低頭(ていとう)を狙ったのか、交渉を有利に進めようとしたのか……タランの狙いが何であれ、終わりの見えない対立に国はすっかり疲弊していた。

「今回ばかりは侍従長の目論み違いだったのでは?」

「…だと、いいがな」

 確かにタラン侍従長はもともと、帝国との交易の不平等さに不満を抱いていた…。

 しかし、切れ者のタランが勝つ見込みのない賭けに出るとはどうしても思えなかった。

 勝算があった筈だ。

 さらに言えば、その勝算が確信に変わったからこそ、奴は近衛兵を撤退させたのではないだろうか。


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