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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第19章 砂塵に紛れ

「おやおや…騎兵師団将官、バヤジット殿ではないですか。この様な夜に如何されましたか?」

「…っ…じ…侍従長殿。貴方こそ…ここで何を…!?」

「私はそこの彼と話していただけですよ」

「……!?」

 混乱して立ち尽くすバヤジットへ、タランがわざとらしい敬語で声をかけた。

 シアンは無言で目をそらす。

“ シアン…!? ”

 そらされたバヤジットがますます動揺する。

「話?と言うのはっ…いったいどのような内容ですか」

「ふむ……それは私の口からは申し上げ難いな。彼に聞くのが良いでしょうね」

「くっ…」

 タランが話をはぐらかすので、バヤジットはシアンに詰め寄るしかない。

「シアン!お前……」

「……」

「ここで何をしていた……!?」

「──…何も」

「……っ」

「バヤジット様にお伝えする事は何もありません」

「──シアン!」

 バヤジットの問いを突き放したシアンが、話途中で再び歩き出す。

 出口に立つバヤジットの横を素通りして外へ出た。

 バヤジットは彼の腕を掴もうと振り返るが、間に合わない。

「待てシアン!」

 足早に立ち退くシアンは呼び掛けに応じる気配がない。


 ──焦っているのだ

 いつも冷静なシアンが


「く、くくく……」

「…ッッ」

 階段の下でタランが嘲笑う。

 見下ろしたバヤジットを挑発するように、ゆっくりと顎髭を撫でていた。

「彼はつくづく面白い青年ですね、将官殿」

「……!シアンとはどういうご関係ですか。あいつは、貴方と接点があるような身分では──…」

「おや、将官殿はいったい彼の何をご存知なのか?」

「…っ…なんだと?」

「いえいえ、それより気を付けなさい。顔が可愛らしいからと安易に傍に置いていては…そのうち噛み殺されてしまいますよ?」

「なっ!…違う!俺はそんな理由でシアンを匿っているわけでは…っ」

「冗談。……ただ、あの青年を簡単に信用してはならないという意味です」

「……ッ」

 楽しげに話すタランをキッと睨み付けて、バヤジットは声を荒らげる。

「あいつが信用に値するかは俺が決める事です。失礼する!」

 そして、シアンの後を追ってしまった。






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