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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第19章 砂塵に紛れ
背後に回していた右手を戻す。
「もう少しお待ち頂ければ、僕から貴方に証(あかし)をお見せできます」
「──証?」
「僕が兵団(ここ)に来た覚悟の証です。僕がそれを示したら…貴方は僕に協力してください」
「面白いな。それで?私に何を望む?」
「……」
シアンは階段を上がった。
そこに立つタランのもとへ一歩一歩と近付き、目線の高さが逆転しない、数段下で立ち止まる。
「貴方の権限で僕を王宮警備兵に命じて下さい」
「…なんだ、そんな事でいいのか」
「ええ……それで十分」
" 後 " は自分でしなければ意味が無いので
その言葉とともにシアンは微笑む。
全くもの怖じしない彼の表情に、タランは感心する。
タランも笑みを返すのを確認したシアンは、衣が触れ合う近さで相手の横を通り過ぎた。
「この先に行かずとも良いのか?何か用があったのだろう」
「…地下への扉は閉まっているのでしょう?であるなら用はありませんよ」
「そうか」
タランに背を向けたまま歩き続ける。
「ではまた後日……お会いしましょう。その時は僕の願いをお聞きいれください」
計画に若干の狂いが出たが、問題ない。
シアンは冷静に来た道を戻り、砂が吹き荒ぶ地上を見上げた。
「──…!」
そして、頭布(ターバン)で顔を覆い始めたシアンは
地下階段の出口に立つ人影を見て、その手を止めた。
「シアン…!? お前ここで、何を…」
「……バヤジット……バシュ……!?」
足跡を追ってきたバヤジットが、ちょうど地上へ上がらんとするシアンを見下ろして立っていたのだ。
それからバヤジットの視線はすぐに、シアンの背後の男に移った。
「誰だ、そこにいるのは…」
「……」
「…っ…!? タラン侍従長……殿……!?」
シアンとタランを両の目で往復したバヤジットは、最後にその目をシアンに向ける。
「…っ」
それまで微笑みを貼り付けていたシアンの顔は、さすがにそんな余裕を失い──苦々しげに目許を強ばらせたのだった。