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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第20章 冷たい手枷

「‥ッ…─!? ク‥‥ハァ、ハァ、ハァ、ハァ‥」

「もう止めてくれ…!!」

 重たく湿る空気をなぎ払うような、バヤジットの叫び声。

「…ッ…いったいなんだ喧(やかま)しい!」

 遊戯の途中で水をさされたスレマンが、何事かと怒鳴り返した。

「貴様さっさと出て行けと言っておろうが!」

「いや!俺はさがらない…っ」

 バヤジットは引き下がらず、大股でシアンに近付いた。


ガチャ!


 彼はシアンの手枷から片方の留め具を引き抜いた。


「この者の疑惑はっ…もう解けました。連れて帰ります」

「バヤジット…!私の戯れを邪魔するとは何事だ?いつ貴様にそれを許した?」

「こんな尋問は間違っている!話す事は以上です」

「言わせておけばっ…、成り上がりの男爵ごときが!」

 他方の手枷も同じように外す間、怒ったスレマンがバヤジットに怒鳴り続けていた。

 バヤジットは普段、この将官に逆らったりしない。

 だが今だけはスレマンに真っ向から歯向かい、シアンの拘束を解いて彼を解放した。

 シアンをスレマンから奪い返すように抱き寄せる。

 脱がされた服がシアンの足に絡まって転げそうになると、バヤジットがその身体を肩にかついだ。

 下半身が丸出しのシアンだが、バヤジットはかついだ彼ごと防寒用の衣を頭からかぶり、服の内側に彼を隠す。

 スレマンがまだ何かを喚いているが

 バヤジットはそれを無視して、牢が並ぶ部屋を後にした。



───






 司令部の外に出ると、嵐の闇が二人を待ち受ける。

「………離して ください」

 バヤジットが自邸へ戻っている道中で、彼にかつがれたシアンが衣の内側で呻いた。

 まだ体力が回復していないシアンの声は、弱々しい。

「聞こえませんか?離して ください…!!」

「…っ、大人しくしていろ」

 そんなシアンが肩の上で身をよじっても、バヤジットの逞しい腕は離す気配がない。

 彼はそのままシアンを連れて自邸へ戻ったのだった。





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