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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第21章 罪滅ぼし

 門を開け、迎えのいない玄関で立ち止まる。

 まとった砂埃を落として、バヤジットはシアンに声をかけた。

「おい、着いたぞ」

「……」

「誰に見られる訳では無いが……自分で部屋まで歩くか?」

「……まさか、今夜も僕を泊める気ですか」

「そうだが」

「ふっ……正気とは思えませんね。寝首をかかれると思わないのですか?まさか僕の疑いが晴れたわけでは無いでしょう」

「…っ…当然だ」

「なら…」

「──だがお前は、ここで俺を殺して逃げるような馬鹿ではない。それくらいは俺にもわかる…」

「──…」

「…ッ」

 シアンの口調に危うさを感じながらも、冷静にバヤジットは受け答えた。

 緊迫した空気。

 しばらく沈黙が流れた後──

「…ハァ」

 溜息をついたシアンが、先に折れた。


「…そうですね。貴方を殺める事にはメリットを感じません。少なくとも、今は」

 諦めたシアンが脱力するのを確認して、バヤジットは肩で小さく息を吐いた。

「気がすんだか?」

「…疲れました」

 バヤジットは玄関から階段を上がって二階へ向かった。

 目的の部屋に入ったバヤジットがシアンを下ろした先は、寝台の上だった。

 衣の内側で周りが見えていなかったシアンは、頭に被った衣をとって部屋を見渡した。

「ここは、……いつもの部屋と違いますね」

「俺の寝室だ」

「貴方の?」

 意外に思ってシアンがバヤジットを見る。

 それほど広くない部屋の隅で、バヤジットは何重にも着込んだ上衣を脱ぎ捨てていた。

 きっちり着込まれた隊服を脱ぎ去るごとに、厚みのある褐色の身体が晒される。筋骨隆々としたその肉体は野性的でありながら、厭らしく見えないのは彼の禁欲的な性格の表れか…。

「お前もさっさと着替えろ。夜は冷えるから水浴みは明日にすればいい」

 あらかたを脱ぎ終えたバヤジットは、寝台で動かないシアンへ背中ごしに声をかけた。

「何を固まっている?着替えを…、──ッ」

「……」

「替えの服が…無かったな。俺のを貸すからこれを着ておけ」

 乱れた服装で座るシアンに、手にしていた肌着を投げてよこす。

 代わりに着替えを失ったバヤジットは、下だけを穿いた上裸の格好でシアンに振り向いた。


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