この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第21章 罪滅ぼし
門を開け、迎えのいない玄関で立ち止まる。
まとった砂埃を落として、バヤジットはシアンに声をかけた。
「おい、着いたぞ」
「……」
「誰に見られる訳では無いが……自分で部屋まで歩くか?」
「……まさか、今夜も僕を泊める気ですか」
「そうだが」
「ふっ……正気とは思えませんね。寝首をかかれると思わないのですか?まさか僕の疑いが晴れたわけでは無いでしょう」
「…っ…当然だ」
「なら…」
「──だがお前は、ここで俺を殺して逃げるような馬鹿ではない。それくらいは俺にもわかる…」
「──…」
「…ッ」
シアンの口調に危うさを感じながらも、冷静にバヤジットは受け答えた。
緊迫した空気。
しばらく沈黙が流れた後──
「…ハァ」
溜息をついたシアンが、先に折れた。
「…そうですね。貴方を殺める事にはメリットを感じません。少なくとも、今は」
諦めたシアンが脱力するのを確認して、バヤジットは肩で小さく息を吐いた。
「気がすんだか?」
「…疲れました」
バヤジットは玄関から階段を上がって二階へ向かった。
目的の部屋に入ったバヤジットがシアンを下ろした先は、寝台の上だった。
衣の内側で周りが見えていなかったシアンは、頭に被った衣をとって部屋を見渡した。
「ここは、……いつもの部屋と違いますね」
「俺の寝室だ」
「貴方の?」
意外に思ってシアンがバヤジットを見る。
それほど広くない部屋の隅で、バヤジットは何重にも着込んだ上衣を脱ぎ捨てていた。
きっちり着込まれた隊服を脱ぎ去るごとに、厚みのある褐色の身体が晒される。筋骨隆々としたその肉体は野性的でありながら、厭らしく見えないのは彼の禁欲的な性格の表れか…。
「お前もさっさと着替えろ。夜は冷えるから水浴みは明日にすればいい」
あらかたを脱ぎ終えたバヤジットは、寝台で動かないシアンへ背中ごしに声をかけた。
「何を固まっている?着替えを…、──ッ」
「……」
「替えの服が…無かったな。俺のを貸すからこれを着ておけ」
乱れた服装で座るシアンに、手にしていた肌着を投げてよこす。
代わりに着替えを失ったバヤジットは、下だけを穿いた上裸の格好でシアンに振り向いた。