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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第21章 罪滅ぼし

 床に跪くシアンを残して、出口のほうへ逃げてしまう。

 一度始まった行為を途中で遮られて、シアンは呆気にとられているらしかった。

「シアン…お前に邪(よこしま)な感情を抱いたことを否定はできない…!スレマンに侮辱されるお前を傍観していながら、すぐに助けられなかったのは俺の弱さだ」

「……!?」

「俺はもちろん完璧では無い。頼むから…っ、そうやって俺を挑発してくれるな!俺は頭に血がのぼりやすい」

「ではっ…何を思って、貴方は僕を寝室に…!?」

「それは──…、お前を閉じこめる為だ」

 話す口ぶりも相変わらず余裕が無く、男は弱さを隠せていなかった。

「お前はしばらく外出禁止だ!勝手な行動は容認できん」

「ッ…それは」

「ここはこの建物で唯一鍵がかかる部屋だ。身体を拭きたければ奥の洗い場を使えば済む」

「つまり、軟禁生活をここで送れと?」

「…そうだ」

「いつまでですか?死ぬまで?」

「いや……。
 俺がお前を隊から追い出すまでだ…!」

「…ッ!?」


 今度はシアンのほうが狼狽えた。


「今のお前はスレマン将官の預かりだが元の推薦先は騎兵師団だ。クルバンとして連れられて来たお前だが──…騎兵師団の配属となるなら、将官の権限でなんとか除名処分にできるだろう」

「それはっ横暴ではないですか?」

「横暴だろうと知ったことか。死ぬまで軟禁よりはマシと思え」

「そんな馬鹿な…っ」

 夜の館に、シアンの珍しく大きな声が響く。

「できる筈がありません…!僕に推薦状を送ったのは貴方よりずっと高位の貴族です。勝手に僕を追い出しては反感を買いますよ?」

「誰に目をつけられようが構ってられるか。お前は…危険だ」

 バヤジットの意思は固いらしく、シアンは焦燥する。

 誰に利用されようがどんな侮辱を受けようが、構いやしない。だが兵団を除名されれば、賤人であるシアンは王宮に近付くすべを永遠に失うのだ。

 そうなれば、シアンの計画はすべて白紙に戻ってしまう。


「……!」


 させて たまるか


「──…ッ とにかくそういう訳だ。ここで大人しくしていろ」

「お待ちください!」

「──ッッ !?」

 鍵を持ち、寝室から去ろうとするバヤジットの懐に、シアンが飛び込む。

 シアンの右手には掌ほどの小さな刃物が握られていた。

 


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