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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第21章 罪滅ぼし

 近衛隊のクルチ(三日月刀)やバヤジットの湾曲刀よりもずっと小さい。それは、とても戦闘であつかえるような武器ではなく

 情事の際に相手のノドを掻き切る──そのくらいにしか役に立ちそうにない刃物だった。

 油断したバヤジットの首に、絶妙な強さで刃が当てがわれる。

 皮の一枚を傷付け、血がじわりと滲むくらいに食い込んだ。


「シアン…ッ」

「貴方に邪魔はさせない…っ」

「俺を殺すか?」

「場合によっては」

「──不可能だ」

「──ッッ!?」


 だがバヤジットの相手ではなかった。

 首に刃を突きつけているにも関わらず、腕を掴まれ、さらに足を使ってシアンの片足がはらわれる。

....ッ!

「く‥‥ッ」

 刃を持つ手はバヤジットに掴まれて頭上に上げられた。腕力でこの男に勝てるわけがない。

 反撃を封じられたシアンはバヤジットにのしかかられ、床の上に組み伏せられてしまった。


「──曲がりなりにも俺は隊の将官だぞ?お前がこれまで相手にしてきたゴロツキと一緒にされては困る」

「……ッ──く…!!」

「それに、シアン──…お前は まだ 人を殺した事などないだろう。殺意の無い刃ひとつで怯むものか」

「…!?…な、ぜ…」

「直感でわかる」

 バヤジットは彼から刃物を没収。シアンを床に横たえさせ、自分だけゆっくりと立ち上がった。


「お前はまだ引き返せる──…」


 部屋の鍵を手に、バヤジットが背を向ける。


「上官に武器を向けたお前の行為は、本来なら死罪にあたるが、目をつぶる。除隊を言い渡すまで大人しくここで待っていろ」

「……何故 目をつぶるのです?」

「……お前を殺したくない。それだけだ」


 バヤジットが部屋を出た後、鍵を閉めて閉じ込められた。






………




 暗い部屋にひとり残される。




 殺したくない?




「ふざけるな」




 ……それで貴方は また 僕を逃がすのか




「それで罪滅ぼしのつもりなのか……ッ」




 仰向けで倒れているシアンは、義手である左腕を掴み、力いっぱい爪を立てた。








───…






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