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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第22章 復讐者の記録──参
────…
──…
……
『 シアン 』
誰かが名を呼ぶ。
少年は重たい瞼を上げ、返事はせず黙っていた。
シアン──彼がこの名で呼ばれるようになりしばらく経つが、いまだに慣れてはこない。けれど少年に、この名を拒絶する権利や利点は無い。だから素直に受け入れた呼び名。
『 シアン、起きてるだろう?さっさと来い 』
そして隣の部屋で彼の名を呼ぶこの青年が、名付け親だ。
あまり耳にしない音の響き。どういう意味かと尋ねた時はとくに意味は無いと返された。そういえば、賽(さい)を投げて出てきた文字を組み合わせたとも言っていた。
痛む身体を敷布に横たえていた少年だったが、起きろとせかされるので重たい腰を上げる……。
戸を引いて隣室に入ると、座卓の前で膝を崩して座るヤンが、少年を見て軽薄に笑った。
『 回復したなら手伝え。寝ているだけの愚鈍なコマは捨てるぞ? 』
『 …何を手伝えばよいのですか 』
昨夜…タチの悪い客に弄ばれ続けた少年の身体は、いまだ回復していない。
傷を治すまで休ませるようヤンは女亭主に言い付けられた筈だ。だがこの男、いい顔をするのは雇い主の前だけで、二人きりになった途端にコレである。
《気まぐれ姫》という異名で客を魅了する高級男娼も、少年からすればやはりガラの悪い盗賊か何かだ。
フラフラと近付いた少年の顔に、ヤンがくわえた煙管(きせる)の煙がかかる。
座卓の上で散らかっていたのは──なるほど、数え切れない手筒(てがみ)の山。
それを見た少年はすぐに状況を把握しヤンの隣に座った。
『 筆はどこです? 』
『 さすが察しがいいなお前。優秀なコマは好みだ…可愛がってやろうか? 』
『 結構ですよ…ッ 』
肩に腕を回してきたヤンが、そのまま服の衿から少年の胸元に手を入れる。
少年は面倒臭そうに顔をしかめて、肌を撫でようとするヤンの手をパシリと叩いた。