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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第22章 復讐者の記録──参

『 この娼館で名をあげれば、僕も《 クルバン 》になれるでしょうか 』

『 お前……正気か 』

『 実情がどうであれ、建前(たてまえ)は近衛兵になり、クオーレ地区に住めるのでしょう? 』

『 …はぁ 』

 ヤンは呆れた顔を向ける。

 しかし少年の顔は真剣そのものである。これにはヤンも返答に困った。

 少年は頭が良い。ヤンの言うクルバンがどういう物か理解して、理解したうえでクルバンになる方法を聞いているのだ。

『 …熱で頭まで可笑しくなってんじゃないだろうな 』

『 なっていません 』

『 なら何が目的だ 』

『 …話すつもりはありません 』

『 そーかよ。だがクルバンになればお前の運命は決まったようなものだ。確実に──… 』

『 確実に死のうとも 』

『 ──…! 』

『 殺される前に、目的を果たす。どうせギョルグとなった僕は短命なのです。残った命の使いどころを決めるのが僕の " 権利 " でしょう? 』

『 ハッ…、お前やっぱり面白いねぇ 』

 死にたければ死ね。生きたい奴だけ生きればいい。いつもそういうヤンでさえ、この少年を前にして《イカれている》と確信した。

『 そうか昨夜のお前の客──奴らも確か近衛兵だったか。それでいっちょ前にやる気を出した結果がコレか?ぶっ倒れるまで遊ばれて健気だな 』

『 …っ…やる気なんて出していません 』

『 貴族にとりいって何をしようとしてんだか…。だが、まぁ、お前の自由か 』

 人並みに情がある者ならば、クルバンになろうとする少年を必死に引き留める。

 そうしないヤンも、少年と同じように常識の欠けた人間だということだ。

『 平民でもない俺たちがクオーレ地区に入るには…確かにこの方法しかないだろうな 』

『 …わかりました 』

『 何もわかってないように思えるね 』

 少年はそこで話すのをやめ、次の手筒を取りヤンの代筆に取りかかった。

 これ以上は、過剰に興味を見せたりしない。

 しかし少年の内には、それまで無かった明確な道筋が立ち現れていた。


 僕は──必ず


 あの場所へ


 その為なら、何者にでも堕ちてみせる


 強い意志を感じる幼い横顔を見つめ、ヤンは静かに目を細めた。










……………


─────……






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