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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第22章 復讐者の記録──参
『 不満が顔に出てるぞ 』
『 顔に出すくらい許してください、ハァ……、ん?この封筒 』
『 どうかしたか 』
ヤンの代筆を始めた少年が、ある手筒を持って興味を示した。
寝そべるヤンは首を伸ばして、少年が手にしたそれを覗いた。
『 ──…それか。何か気になるか? 』
『 貴族の紋章ですね、しかも、これは伯爵家 』
『 へぇ?やけに詳しいじゃないか 』
『 …っ、べつに 』
手筒には、赤色の封蝋(ふうろう)。そこには、送り主が貴族である事を示す紋章が刻まれている。
見せてみろ、とヤンが言うので、少年はそれをヤンに手渡した。
『 ……ああ、なるほど、な 』
グシャッ
しかしヤンはその中身を見ると、気だるそうに息を吐いて握り潰してしまった。
『 …!? 何をしてるんですか、ヤン 』
『 コレは無視していい。…返事も不要だ 』
『 なんと書かれていたのです? 』
『 実にくだらん…。《 クルバン 》への招待状だ 』
『 クルバン?…なんですかそれは 』
聞いた事の無い言葉だ。
珍しく少年が興味ありげな顔をするので、いつもなら無視するヤンだが、気まぐれに教えてやることにする。
『 貴族の奴らは気に入った賤人(せんにん)を近衛兵として勧誘するが──勿論、招かれた賤人は兵士にはならない。何も知らず入隊したバカな生贄はクルバンと呼ばれてなぁ…、血の気の多い兵士どもに弄ばれて… 』
『 …… 』
『 …人知れず壊されて、捨てられて終わりだ 』
『 それが、クルバン…… 』
『 まったくこの国には馬鹿な慣習が残ってるものだな 』
騙す貴族も…騙されるほうも、どちらもくだらない。
ヤンともなれば、招待状が届いたのは何度目か知れない。貴族の客は払いがいいが、ここまで欲を出してきた奴はさっさと見切りを付けることにしている。
“ あの伯爵…この俺をクルバンにしようとは…舐めたマネをしてくれたな。次に客として来た時はどうしてやろうか ”
ヤンは良からぬ事をたくらむ顔で口許を歪めた。
『 ──…その招待状を手に入れるには、どうすればいい 』
『 は? 』
その時、少年が思いがけない事を言ってヤンの意表を突いた。