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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第23章 引き止める者

 オメルは、シアンがそんなふうに扱われるのが嫌だった。

 でも言い出せなかった。だってシアンはこれまで…ずっとそうして生きてきたから。

 否定したくない。

 オメルはシアンが好きだから、彼の生き方を否定したくなかった。


「行かないでくれよぉ…!!」

「──…」


 でも、シアンが そちら側に 行ってしまうのはとても悲しい。

 引き止めたい。とどまって欲しい。

 シアンは、家族以外で初めて優しく接してくれた人なんだ。だから…シアンも大切にされてほしい。優しくされてほしい。

 けどあいつは…スレマンは、シアンを大切に扱ってはくれない。



 そんなの、あんまりじゃないか。



「なんで行くんだよ…なんで、あんな奴に…!!」

「……僕は」

「戻れよ、行くなよ、行くなよ…!!」

「──…」

 取り乱すオメル。

 シアンは彼に、とどめのひと言を口にする事もできたけれど、彼の純真な想いを前にそんな非道は はばかられた。


「君は本当に優しいね」


「……ッ」


「ありがとう」


 それと、ごめんね


「これからはバヤジット将官が君を守る。あの方は君を貶めたりしないから安心していい。そしていつかここを出て──…君の夢を叶えてくれ」


 白い花

 それが君の宝物

 いつか、一面に広がる白い花を…

 この干からびた国に、君の夢を咲かせてくれ



 シアンは託すような言葉をかけて、優しい言葉だけを残して、オメルをおいていく。

 部屋から盗んだ大きな外套を身にまとう彼は、邸宅の出口に向かった。

「オレは、まだ…!」

 オメルの泣き声が背中を追った。

「まだ敬語の使いかた教えてもらってない!約束したのに!手紙だってっ…まだひとりじゃ書けねぇ…!!」

「……」

「知らない、まだ、教えてくれてないこといっぱいあるのに!まだ、まだ、まだ、まだ…ッッ」

 だが外へ続く扉を開ける頃には、その声も聞こえなくなる。



「まだオレ──…シアンのこと……
 …ッ…何も知らないままじゃんか……」



 一度も振り返らず、オメルが何を言おうと取り合わない。

 こうやって彼を突き放す事が、シアンにも許された、思いやり故の決別だから。



「……知る必要は無い」



 だからどうか、僕のことは忘れてくれ








──…



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