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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第24章 明かされる正体

「御客人のようです」

「…ん、ああー…?貴様……バヤジット…か」

 呼ばれたシアンは振り返り、部屋の奥へ戻った。

 かろうじて巻き付いている下衣をずるりずるりと引きながら、長い脚を見せ付けるように歩く。

 シアンは男が座る椅子に手を置くと、そっと片膝をのせる。

 机に置かれたひとつの燭台に灯された火が、そこで座っている男の、だらしのない顔を浮かび上がらせた。

「スレマン…バシュ…!!」

「ふふふ……」

 シアンの腰を引き寄せたスレマンは、視点が定まらないのか、首に力が入らないのか……ふらふらと頭を動かしている。

 だいぶ酔っているらしい。

 バヤジットが踏み込むのに躊躇するほど、部屋の中は酒の臭いが充満していた。

「……な にを、しに来た?……ああ?」

「そ、そちらこそ……何を……!?」

「何を?だと?ハハハ!見てわかろうが……このっ、生意気な酒姫(サーキイ)を、可愛がっておったところよぉ」

 スレマンの手がシアンの腰を撫で回すと、シアンは男に寄りかかり、甘えた表情で顔を男に近付けた。

「御主人様……せっかくです。あちらの将官に、先ほどの話を教えてやってはいかがでしょう」

「話ぃ…!?……何故だ……」

「いいではありませんか…、証人………ですよ」

 機嫌をとっているのがあからさまな声で囁き、シアンは男に口付ける。

 舌を突き出しバヤジットに見せ付けるようにして、粘着質な音を立てながら厭らしく吸い付いた。

「……ん‥‥っ、は…‥ッ…‥ハァ、ククク‥…貴様の頼みだ…‥いいだろう……」

 シアンに口付けられて上機嫌なスレマンは、重そうな瞼を上げ、バヤジットに向け声を張る。


「……クク、ククク‥…ッ‥…聞くがいいバヤジット」


「……っ」


「私はなぁ…‥この酒姫を……
 我がハムクール家に、むかえいれる……!!」


「なっ!───何を!? いったい何を言っておられるのですか!?」


「…これで一生……こやつは私のモノだ……クク」


「……!?」


 さも愉しそうに含み笑う男の首に──…まるで締め殺そうかというように腕を巻き付けたシアンは

 男からは見えない位置で、声を出さずバヤジットを嘲笑う。

 シアンが抱きつくその " 男 " は

 すでに壊れた人形だった。











───…



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