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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第25章 甘い毒
ところでキサラジャのとある娼館通りでは、" 甘い酒 " が飲めると噂の売春宿がある。
この国で──とりわけ貴族でない者が手に入れられる酒は、質の悪いものがほとんどだ。貯蔵の技術が西方のそれほど進んでおらず、すぐに酸化してしまうからだ。
なのにその宿の酒は甘い。
いったいどういう理屈か。まさにこれこそ、シアンが仕掛けた毒の秘密であった──。
「…初めてここで酒を振るまった日、僕は近衛兵達の前で酒を鍋にうつし火にかけました」
「……!?」
「宿舎にある鍋は鉛(なまり)です。それで熱を与えると、大量の鉛が酸化した酒と反応して甘い物質に変わります。スレマン様はコレがお気に召されたようで…………」
「……そっ……そんな物を……飲ませたのか」
「ええ……。肌と肌を重ねながら、やすみなく流し込み続けました。それでもあとふた月はかかろうかと予測していましたが…早く効果が現れたのは幸運でしたよ」
「…──ッ」
床に跪いたままのバヤジットが、ほりの深い目元を動揺で歪ませる。
「貴方はいかがですか、バヤジット様」
そんな彼に挑発的に顔を近付け
「僕の身体を肴(さかな)にして飲む酒(ドク)は美味ですよ」
蠱惑的な目でシアンは男を見下す。
「お望みとあらば指の一本や二本、喜んで差し上げます」
...ニコッ
「──…きっとそれで、貴方も壊せる」
美しい顔を歪ませたシアンは、その後バヤジットの邸宅を去っていった。
───……