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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第25章 甘い毒



「……、鉛(なまり)です」



「鉛……!?」

 バヤジットはうろたえた。

「鉛が酒の材料だとでも…!?」

「そうではなく、鉛が混ざるのは酒を保管する瓶(かめ)の中です。あらゆる容器、食器にいたるまで西国は鉛を好んで使いますから」

「本当 に…そんなものが人を害する毒に変わるのか…っ。スレマン・バシュの " あれ " が酒に溶け出た鉛を飲み続けた結果なのか?シアンお前がこうなると予測して──っ」

「その通りです。だがこの方法では……標的を錯乱いたらしめるのに何十年と待たなければなりません。なので」

 酒に微量の鉛が含まれるという事は、知る者にとっては既知の事実。

 よって、たとえスレマンの身体を調べた医官が鉛の反応に気付いたとて、単純に酒を飲みすぎた結果ととらえるしかない。

 そんな理由で錯乱したとあっては伯爵家の恥だ。

 酒と男娼に溺れて精神疾患など……

 スレマン・バシュの妻も子も、その事実を隠すだろう。


 しかし、普通の葡萄酒に含まれる鉛は微量すぎるが故に、それこそ何十年と飲み続けなければ人体に影響はないのである。

 そこまで知っていたシアンは

 スレマンを陥れるべく、恐ろしい手段をもちいていたのだ。


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