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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第26章 密書の送り主
──…
「職務は順調か?王宮警備兵(ベイオルク)殿」
「──タラン侍従長様」
シアンが王宮警備兵に任命されてから十日後、王宮の廻廊を巡回中の彼はタラン侍従長とすれ違った。
「私の権限でその地位に就かせてやったというに、挨拶のひとつも無いとはどういう事か?」
「……僕など、侍従長様へ拝謁(はいえつ)を許されるような身分ではありませんので」
「それは今更すぎる話だろうよ。"元" 賤人という身の上でクオーレ地区はおろか王宮にまで入った者は、後にも先にもキサラジャの歴史にお前ひとりだ」
会釈をして通りすぎてもよかったのだが、立ち止まったタランが呼び止めたのでシアンはそれに応じた。
「ハムクール・スレマン・バシュの件……いや今はバシュの職を解任されたのであったか。医官が言うには錯乱状態が続いているらしいな。譫(うわごと)のようにお前の名を呼んでいるとか」
「…そのようですね」
「どんな手を使ったかは知らんが、伯爵家の人間を手玉にとるとは恐ろしいな。ハムクール家を乗っ取るつもりか?」
「いいえ、僕が養子になったとはいえスレマン様にはすでに後継ぎとなる子息がおります。乗っとるなんて考えませんよ」
「スレマン・バシュにも伯爵家にも興味無しか。……爵位を手にした今、すでに彼等は用済みということらしい」
「……」
肯定ととれる沈黙でシアンが返す。
「まんまと爵位を手にいれたなら、私が手を貸さずとも王宮警備兵にくらいなれたのではないか?」
「何を仰いますか、侍従長様。陛下の身辺は今や貴方の手の者で固められており、僕のような部外者はまっさきに排除されたに決まっています」
「ふ……抜け目の無い男だな、シアンよ。やはりお前は面白い」
「ありがとうございます。ではそろそろ巡回の交代時間ですので」
失礼しますと頭をさげるシアン。
彼のためにしつらえられた新しい帽子には、王宮警備兵(ベイオルク)の印である、太陽神の武器、獣角弓の刺繍があった。