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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第29章 地下の陰謀
水の社は、キサラジャ王国で大神殿とならび最も神聖な場所だ。
その歴史は王宮よりもずっと古く
水盤に仕掛けられたある細工を動かすと地下への隠し通路が開くことは──王族のみが知っている。
その地下道は王都の下を巡っていた。
侵入者を妨げる複雑な形状をしており、それを辿ると、王の寝室だけでなく、街のはずれの神殿跡地にまで繋がっている。
かつて──国王暗殺の容疑をかけられた王弟が、この地下道を使い街の外へ逃げ出した。……そんな、秘密通路である。
──…
バヤジットの邸宅を去った後
負傷した身体と汚れた衣服のまま、シアンは王宮に向かっていた。
「おい、どこに行く?」
途中、別の王宮警備兵の男が、廻廊を歩く彼を呼び止めた。
「今晩の警備はお前ではないだろう」
「……そうでしたか?勘違いしておりました」
不審に思う男には、簡単な受け答えだけを。
さっさとその場を通り過ぎて、シアンの足は目的となる建物を目指し──王宮の庭園にたどり着いた。
そこは水の社(やしろ)。
暗闇の社に人の気配は無く、ただ、中央の水盤に水が湧くトクトクと静かな音が流れている。
水盤に近付いたシアンが清らかな水に手を浸し、ある模様の部分を押すと、社のどこがで重たい何かが動いた音がした──。
──ガコン
音の鳴ったほうへ向かうと、床の石がわずかに跳ね上がっている。
それは、地下に降りる隠し戸だ。
隙間に手を入れると石は簡単に動き、シアンはその中に入ることができた。
──
「──…」
シアンは暗闇の地下道をしばらく進んでいく。
目では何も見えない。
それでも、この複雑な地下道で、彼が向かう場所は決まっていた。
カツ
カツ
カツ
目的地は王室ではなく
もちろん街外れの神殿跡地でもなく
近付くにつれ……ふと、かすかな人の声がシアンの耳に届き、彼はこの暗闇がもうすぐ終わることを確信した。