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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第30章 捨て置いたモノ

「耐えれん臭いだな、まったく…」

 公務を終えたタラン侍従長が再び地下の牢に顔を出す。

 日がな一日……かわるがわる男達に犯され続けたシアンは、穢されたままの姿で放置されていた。

「歓迎はお気に召したか?」

「‥‥‥」

 両手首を鎖で繋がれ、牢の壁に背を預けうずくまるシアン。身体中にこびりついた体液は牢の石床にまで広がり、陵辱の苛烈さを示していた。

 タランの声に反応してあげた面(おもて)にも、暴力の痕がありありと残る。

 そんな無惨な状態で……だが、彼の表情はいつにも増して妖艶だった。


「──‥‥、兵器‥‥ですネ 」


 腫れた唇が弧を描き、貼り付けた笑みが挑発する。


「タラン様がこの地下で何を作っているのか‥…、わかりました‥‥」

「……ふん、家畜どもが何か喋ったか?」

「フフ‥‥こんな僕を、わざわざ警戒する人間もいないでしょう?」

 ボロボロに犯された生贄を警戒して、秘密を守ろうとする男なんていなかった。

 断片的な情報から、地下に集められた彼等の仕事の全容を把握し、シアンは、タラン侍従長の企てを理解した。

 この地下道は、王都に隠された密造所だ。

「密造品は──…火槍(シャルク・パト)、ですね」

「鋭いな、……その通りだ」


 《 火槍 》


 それは東方──帝国の辺境にて、不老不死の秘薬を生み出そうとした術師によって偶然作られた。

 ある温度に達すると爆発する粉塵だ。

 その威力はたいして注目されていなかった……そう、最近まで。

 先の帝国の内乱で、鉄と組み合わせ武器として使われたと聞くが、もちろん軍事機密。火槍(シャルク・パト)と密かに名付けられた後、詳細は闇に隠されている。


「貯蔵室らしき場所の…あの臭い、爆薬の…原料…でしょう?そして集めた平民に鉄をうたせっ…兵器として利用しようとしている」

「……」

「帝国へのカナート(地下用水路)も…火槍で破壊したというわけだ……!復旧を邪魔するのも当然ですね?痕跡を見られれば密造を疑われる」

「はははは!面白い発想だ」

 シアンの話を聞いて、タランは歓喜した。パチパチ…と優雅に手を叩く。

 タランはつくづく、シアンという人材を惜しんだ。

 ここで失うには勿体ない。そう、その正体が……かつて謀殺した忌まわしき王族でさえなければ。


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