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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第30章 捨て置いたモノ
「貴様の推測はほぼ正解だ。帝国に忍ばせている我が密偵が、火槍(シャルク・パト)の設計図を手に入れたのでな……地下を利用し製造準備にとりかかったのが、六月(むつき)前」
「フッ…帝国にまで密偵を?ぬかりない」
「当然だろう」
「それで不足した人手は、帝国との対立で税を払えなくなった平民でおぎなったと……。いやそれだけじゃない」
「……」
「ウッダ村の民兵を武装させ、戦わせようとお考えか…!」
「くくく…」
ウッダ村にはおびただしい数の平民が集められていた。
だが統率されていない彼等は、とても戦場で戦えるようなレベルではなかった。剣のふり方も知らない素人。思わずバヤジットが怒鳴り込んだほどである。
だが、もし……火槍が完成すれば
戦は変わる。弓と剣で戦う時代は終わり、質 より 数 の時代となるのだ。
「帝国と戦争を始めるおつもりか?」
不気味に笑うタラン侍従長へ、シアンが問う。
「まさかまさか」
「違うと?」
「帝国との国力差からして、火槍で武装したとしても勝てる見込みは高くない……」
「…っ…これほど対立を煽っておきながら…戦意はないと言う気です か」
「帝国(むこう)も内乱後の不安定な状態だ。大義名分のない戦はできんだろうよ。私はね、国を背負う身として " 賭け " などしない」
後ろに控える手下を残し、タランは牢に歩み寄った。
そしてシアンが座る目の前でスっと腰を下ろす。
彼が着る上等な長丈衣(エンターリ)が床のススで汚れたが、気にならないらしい。
タランは整った顔を近付け
格子ごしに、シアンにだけ聞こえる声で話を続けた。
「確実に勝てる相手は……我が領内にいるがな」
「……!」
「民兵どもの練成費には我がラティーク家の財を当てている……。つまりアレ等は、私の私兵だ」
「キサラジャを‥‥‥乗っ取る‥‥‥つもりですか」
「形式だけの近衛兵が、たちうちできると思うかね?」
目を見開いたシアンの驚きように満足して、タランは顎髭を撫でる。
ゆっくりとした所作の後……冷酷な目つきでシアンを見下ろした。