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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第31章 鳴り止まない声

 それこそ有り得ない話だった。何故ならその…無知で無邪気な声のぬしは、もうこの世にいないのだから。

《 シアンにあげる…僕の夢。だから 》

 シアンは唇を噛み、憎々しげに目元を歪めた。

 自らの手で散らせた命。
 自分さえいなければ散ることの無かった命。
 自分勝手な " 目的 " のために犠牲にした
 愛しい、存在だった。


「──‥ッ」


 シアンはその刹那(せつな)、思い起こす。

 自分はまだ目的を叶えていないじゃないかと、まだ、やるべき事が残っているじゃないかと。

 それまではこの地獄を生き抜くのだと、何度も誓った筈だ。

 何が起ころうと

 どこまで堕ちようとも──




「‥‥バヤ‥…ジット‥‥さ、ま‥!」

 シアンは震える声でバヤジットを呼んだ。

「ハァッ‥! …‥バ‥ヤ……ット‥‥…さ、ま‥‥!!」

 猟犬に犯されながら彼の名を叫ぶ。

「はぁ ‥ッッ」

 けれど吐き出した声は、背後の犬の鳴き声でかき消されるほど小さかった。

 長い陵辱の果てに、とうに喉は枯れて

 舌もまともに動かない──。


《 何処にいるんだシアン!!》


「ハァーッ‥ハァーッ‥…く‥‥!!」

 どれだけ叫ぼうとしても声が出てくれない。

 返事ができない。

 自分を探す男の想い(こえ)は…これほど強く届いてくるのに。

 だから、うつ伏せのシアンは右の手首に巻かれた鉄の手枷を、思い切り床に打ち付けた。

「バヤ ジット‥‥、バシュ‥‥ッッ」

 声の出ない喉を懸命に開き、頭に響く声に返事をしながら

 シアンは何度も、手枷を打ち付ける。

 そうしている間にも、地下は火事のせいでみるみる温度が上がっていた。


ガキン!ガキン!・・・ガキン!


「‥‥僕…は‥、ココ‥‥です‥‥!」


・・・ガキンッ!!


「‥‥ッ…‥バヤ‥ジ‥──ト‥‥」


 意識が朦朧としてくる。

 このまま委ねてしまえばラクだろうが……

 今のシアンには、それが許されていなかった。








──




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