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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第35章 断罪審議


“ そうかっ……貴様なのだな ”


 優しく利発な王子だった。性格は明るくささいな事にも興味を持ち、吸収が早い。幼いながらも名君の素質を感じさせる王子は……だからこそ邪魔であったのだ。


「貴様が仕組んだな…。カナートも…地下と暖炉の爆発も…すべて…貴様が…。

 コレが復讐というわけだ…!」


 タランの不可解な言葉を理解できた者が、この場に何人いたろうか。彼の言う " 復讐者 " がそれに返事をしないので、誰への言葉かすら不明だった。


「──…ふっ」

「……」

「…だが私は後悔せんぞ…わかっていたとも、貴様が一番の障壁になりうる存在と。だから私は……貴様を……殺した。貴様は私に殺されたのだ!」





 出口へ続く列柱廊──。長らく議会を掌握してきた侍従長が、大神殿の床を踏むのは今日で最後だ。

 これからラティーク家がたどる道は没落であるのに、出口の光がまばゆく輝きタランを迎えているのは皮肉である。

 帝国使者は目的の男を捕らえたので大人しく帰っていった。シアンもすでに用済みだ。その身柄はキサラジャに任せて置き去った。

「…っ…シアン…?」

 放置されたシアンの身体を、隣のバヤジットが支える。

 バヤジットが見たシアンの横顔は、連行されるタラン侍従長をじっと見つめ…その姿が見えなくなろうと表情は動かなかった。

 笑みはない。

 少なくともその顔に、復讐を達成した充足感は見てとれない。

「──……。……」

 何かを口にしようとして唇をひらき、けれど……結局は言えずに押し黙る。

 この瞬間に彼の感情を揺さぶるモノは何も無かった。

 興味ない

 はなからタランへなど興味がない

 だって侍従長に貶められた憐れな王弟は、もうとっくに殺されたから。シアンがあの日に戻ることは……どう足掻いたとて不可能だ。


 
《 貴様は私に殺されたのだ 》



 かつての宿敵が残した捨て台詞は、そんなシアンの境遇を嘲(あざけ)り、報われぬ刃を冷めた心に突き立てたのだ──。
 













───…








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