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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第35章 断罪審議
「陛下……」
君主に突き放されたタラン侍従長が、ゆっくりと両膝を床について倒れた。
気力をぬきとられた顔で、祭壇の奥を見つめる…。いつもの狡猾さはなりを潜めていた。
代わりに、場をまとめようと手を挙げたのは侍従のひとり──サルジェ公爵であった。これまで唯一タランに反発してきた、国の権力者のひとりである。
「さて、帝国使者よ。話を戻すが貴公らの要望は何であったか?とるべき手順を飛ばした無礼をふまえた上で、申してみよ」
「ふっ…訪問が突然であった無礼は詫びよう、キサラジャの為政者よ。我らの要求は、カナート爆破を手引きした者の身柄だ」
「それであれば……引き渡すべき男の誰であるかは、疑いの余地もない」
「賢明な者もいて何よりだ。これで両国の和平は守られるだろうよ」
サルジェ公爵と話す帝国使者の男は、武官に指示を出してタランを拘束していく。
タランの取り巻きであった侍従も、王に連れてこられた裁判官たちも、…戸惑うばかりで止められない。
キサラジャ将官であるバヤジットも、連行されるタランを後ろから見ているしかなかった。
「…っ…待て」
両側からはさまれ神殿出口へ向かわされるタランが、最後の異論を唱えた。
「まだ言い逃れをするのか?ラティーク・タラン侍従長」
「私は…カナートを破壊していない…!」
諦めた様子のタランに抵抗の意思は無い。だが彼にとっての真実は違うのだ。この場の誰ひとり、もはや信じてくれないが。
「カナートを破壊した者は他にいる……!私をはめた者が他にいるのだ」
耳を貸されず響くだけの主張ほど虚しいものはないと、タランは初めて思い知ったに違いない。これまで彼自身が蹴落としてきた者達の悲痛な叫びを、今ここで身をもって知っただろう。
これまで……自身の利益の為に葬った
犠牲者達の、無念を
「‥‥‥‥!!」
この時、それら犠牲者のひとり──あの日の王族の少年が、タランの脳裏をよぎった。