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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第37章 痛みを映す鏡
──…
冷たい地下の牢で、床に座るシアンの顔があがる。
高い位置にある窓から白い砂と一緒に風切り音が届く以外、物音のしない牢獄で、誰かの足音がしたからだ。
昨日になってやっと身体を拭くのを許されたシアンは、身を清めていた濡れ布を置いて警戒した。
食事を与えに来る兵士は朝に一度来たはずだから彼らではない。身構えたシアンが待っていると…格子の向こうに現れたのはバヤジットだった。
「バヤジット…様?」
「大事無いか?シアン」
顔を合わせるのはタラン侍従長の断罪審議以来となる。あれから数日が経過しており、久しぶりに話すバヤジットの様子は少しぎこちなかった。
「聞け。タラン侍従長の密偵であったお前について無罪放免が決まった。異例だが…新しい侍従長の意向なんだろう」
「無罪?では…僕の王宮警備兵の職位は?」
「そのまま留任ということになる」
「それは運が良かったですね…」
ラティーク・タランが秘密裏に進めていた火槍(シャルク・パト)での武装計画について、暗躍していたとされるシアンの罪は問われなかったそうだ。
国家反逆につながるのだから死罪が妥当だが、タランの後任であるサルジェ公爵が手を打ったらしい。
サルジェ公爵……か。
タランが連行されラティーク家は没落し、いまや王宮は、ハナム王妃の一族であるサルジェ家の一強体制になったということか。
ラティーク家にすり寄っていた多くの貴族も一気に力を失う。
新たな風が吹く王宮で、混乱のただ中に違いない。