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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第37章 痛みを映す鏡
「……あれから、帝国とはどうなったのですか?」
取り出した鍵で格子の戸を開けるバヤジット。ギイッ…と錆びた音とともに身体を屈めて中へ入る相手へ、立ち上がろうともせずにシアンが問う。
「帝国との交渉も終わったところだ。向こうの提案をのんでカナート(地下用水路)の利権を渡すことになったがな」
「それだけですか?」
「ああ…、返礼品と交易はこれまでどおり再開するそうだ。何より帝国と和解したおかげで街道に商人が戻り始めたのが、キサラジャにとって救いだな」
「……タラン侍従長はどうなったのでしょう」
「それは……わからん」
答える間にも、バヤジットは自分の厚い外套(がいとう)の留め具を外していた。
そして薄汚れたシアンに被せる。
温かな体温が残るそれに包まれた身体が、…そして宙に浮いた。
「……っ」
何も言わずいきなり抱き上げてくるのはやはり、この男の不器用さというか…言葉の足らなさ故である。
「あの、僕は自分で歩けますが」
「いいから大人しくしろ…まだ痛むだろう」
「それは…っ」
…そうなのだが。
少しもためらわずシアンを抱いて牢を出たバヤジットは、見張りの兵士の前も堂々と通り過ぎた。
外に出た後も当然、人の目がある。
思わず振り返るいくつもの視線を意にかえさず、彼は黙ってシアンを運んだのだった。