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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第38章 新たな思惑


──…


 あれからひと月が経過し、復帰したシアンは王宮の入口で警備をしていた。

「シアン・ベイオルク(王宮警備兵)」

 そこで見張り中のシアンのもとへ、別の警備兵が声をかける。

 シアンのいない間に、タラン元侍従長の手先だった連中はことごとく粛清され、王宮警備兵のメンバーもがらりと顔ぶれが変わったものだ。

 声をかけてきたこの男も、シアンが会うのは初めてだった。

「どうかしましたか?」

「いきなりだが今日の担当を入れ替える。お前は今から公爵邸へ行け」

「…公爵邸?」

「侍従長様の命令だ」

 …そしてこの新しい警備兵も、頭が入れ替わっただけで、陛下以外の何者かの手足として動いていることに変わりない。

 腐っているなと感じつつ

 シアンは言われたようにその場を離れた。





──



「──…よくぞ来た」


 ことづけに従い公爵邸を訪れたシアンは、客間へ通された。

 そこで待つのはサルジェ公爵──。現、侍従長。ラティーク家が没落した今、最も権力を握る男だ。


「怪我の具合はどうだ?」

「怪我は……バヤジット・バシュが医官を手配してくださったのでもう回復しています。痕はいくつか残りますが」

「そうか……。貴公のような美しい者が、キズ物になるのは惜しかったな」

 公爵はそう言って、膝をついて座るシアンをまじまじと見た。

 と言ってもその視線にいやらしさは無い。そういうところはタランと同じだ。

 声にもあまり表情を出さないので、豊かな白ひげに隠された口許が笑っているのかどうなのか…判別が難しかった。

 敵か味方かもまだわからない。

 シアンは慎重に尋ねた。

「僕に何の御用でしょうか…──と聞く前に、先にひとつ、よろしいですか?」

「なにかね」

「僕を無罪で牢から出したのは何故ですか。僕はタラン前侍従長の配下として、帝国に送られた密偵ですよ?」

 本当はさっさと打首になってしかるべき、罪状なのだ。

「なんだ?そこは素直に礼を言って終わればよかろう。それとも死罪が望みだったのか?」

「もし…何も ウラ がないと言うのなら、僕も素直に喜べます」

「貴公は疑り深いな」

「そういう性分です」

「……悪いことではない、か」

 その呟きを最後に、サルジェ公爵はパッと無表情を崩した。


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