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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第38章 新たな思惑

 声の出し方も少し豪快になる。まるでシアンの品定めが終わったとでも言うようだ。

「やはり貴公を生かしたのは正解だったようだ!」

「…公爵?」

「ああ悪いな、どれ、まずはそこの椅子へ座りたまえ」

 公爵は機嫌よく、シアンとともに客間の椅子に座った。

 同時に使用人が二人へ茶を運んでくる。机に並べ終わった使用人へ、公爵はこれより部屋に誰も近付けないようにと命じた。

 うなずいた使用人がさがった後、改めて公爵はシアンを見た。



「率直に申して──…貴公を生かすかどうかは、私にとって大きな賭けであった。あまりに素性が知れん。だがそれで貴公を切り捨てられぬほど、いまの王宮にはまともな人材がいなくてな」

「前侍従長派の貴族は、貴方によって粛清されたではありませんか」

「表面的にはそうだが……今も残っているのは、戦うことも思考も止めたフヌケ共ばかりだ」

 前侍従長のラティーク・タランは、そういう意味では優秀すぎる男だった。外交も内政も問題が浮き彫りにならないよう奴がさばいていたせいで、他の貴族は甘い蜜だけを与えられ、使い物にならなくされた。

「これからは国の建て直しが必要だ。貴公の手も借りたい」

「……お言葉ですが」

「どうした?」

「僕の目からしてみれば、今の王宮の構図も、ラティーク家に傾従していた貴族たちが、サルジェ家に乗り換えただけのもの……何も解決に向かっていませんよ」

「ふ……ああ、そうであるな」

 警戒をゆるめないシアンは、公爵の勧誘に流されない。

 とくに、それだけがシアン釈放の理由とは思えなかったからだ。必ず他にワケがある。

 どれだけ殊勝な言葉を並べようと、欲や権力には勝てない。人間なんてそんなもの。

 志(こころざ)しだけで純粋に動いている者なんて──


「──…」


 …あの生真面目な将官、くらいだろう。


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