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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第40章 壁越しの約束


──


ピチャン

ギュッ・・・!


 王の寝所に隣接した浴場で、シアンは湯にひたした手ぬぐいを軽くしぼる。

 あまり広くないそこは湯を溜めておく陶器と座椅子があるだけの簡単な造りで、臨時用に設けられた場所にすぎない。

 ただ、寝所から出なくなったアシュラフ王は日常的にここを使う。

 先ほども王はここで召使い達に身体を洗わせており、シアンはその残り湯を使って身を清めていた。



「──…そこにいるのはシアンか?」

「……!」

 彼が身体をふいていると、足元の排水口から何者かの声がした。

 湯を流すために壁に空いた穴の、向こう側は外。王宮の裏手にあたる。

 この声は……

「…バヤジット様、ですか」

「…っ…そうだ、やはりお前だったな」

「……。今度はいったい何の用ですか」

 シアンは一瞬 驚いたものの、洗う右手は止めずに小声で聞き返した。

「実は昼刻に宿舎の部屋に行ったんだが…。お前はしばらく陛下の護衛で、外に出ないと聞いたんだ」

「そうでしたか。無駄足をふませて申し訳ありません。
…………それで?」

「その、……ああ待て、周りには誰もいないだろうな?」

「ええ僕ひとりですよ」

 外のバヤジットも、他の者に気付かれないためか声を潜めている。

 そもそも

 日中ではなくこのような日暮れ後に、正式に戸をたたいてやってこないあたり、第三者に聞かれてはマズイ話というわけだ。

 シアンはいつものように薄い笑みで揶揄った。


「それで?こんな方法で会いに来るなんて、よほど切迫した用なのですね?──…まぁお気持ちは察します。貴方にしてみれば、僕が陛下のお傍につくなんて危なくて眠れないでしょう」

「……!」

「もしくは逆に…僕の正体が明らかになり、陛下の手で始末されないかを心配してくださっているのですか?」

「……」

 壁向こうのバヤジットは返事をしない。

 図星だったのか。

 シアンが何者であるかを知っている彼にとって、王室で、シアンとアシュラフが二人きりになる事態は危険すぎる。


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