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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第40章 壁越しの約束
「──…僕に剣術を教えて下さい」
「剣術を……?」
「この手で陛下をお護りできるように、僕は強くなりたい。だから貴方に稽古をつけてほしいのです。バヤジット・バシュ」
「そんなことか?俺でいいなら、か、構わんが…」
「約束ですよ」
シアンは止めていた手を動かして、身体を拭くのを再開した。
「…いつにする?」
「まだわかりませんね。僕はしばらく部屋から出られませんし」
「俺は今のところ王都にとどまる予定だから、いつでも大丈夫だ」
「ありがとうございます」
チャプン
手ぬぐいが冷めてしまったので、もう一度湯にひたす。
肌も冷えてしまうからあまり長居はできない。
…それでもシアンは、すぐに動く気になれなかった。
「楽しみにしています、バシュ(将官)」
「……ああ、そうだな、俺もだ」
シアンの声が穏やかだから、バヤジットもつられて顔を朗らかせた。
許されたわけじゃない
あの日に戻れるわけでもない
それでも今の二人に流れる空気は、帰ることのない日々の煌めきを懐かしむ。
『 僕は近衛兵となり、誰よりもそばで兄さまを支え……誰よりもそばでお守りするのだ 』
あの日の幼き王弟の夢は
明るい未来を信じていた純粋な言葉は
今なお、生きているのでは
“ そんなことっ…俺の願望でしかないんだがな… ”
儚い願望とわかっていても、すがらずにはいられない優しい空気が、バヤジットの目頭を熱くさせた。
───…